性犯罪で逮捕された加害者は、動機について「性欲をおさえきれなくて犯行に及んだ」と述べることが少なくない。根本的な治療が必要な加害者でも、警察や裁判官の質問に答えているうちに加害者自身が「(犯罪は)自分の性欲のせいだったのだ」と信じ込んでしまうのだという。そして自らの責任を、被害者や社会の仕組みに転嫁してしまう。そうした性加害者の歪んだ考え方を生む背景、捜査機関の問題点を精神保健福祉士の斉藤章佳さんが解説する。(河出新書『50歳からの性教育』から一部抜粋、再編集)
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■加害者は「モンスター」ではない
拙書『男が痴漢になる理由』で私が、痴漢の典型的な性加害者像を「四大卒、会社員、既婚の男性」とまとめたところ、驚きと納得の、両方の声が上がりました。これは、クリニックに通院している加害経験者たちからヒアリングし、導き出したパーソナリティです。彼らはいかにもマッチョだったり清潔ではなかったりといった風貌ではなく、「普通の」「どこにでもいそうな」と表現されるような人ばかりで、話してみると礼儀正しいというより、腰が低いくらいの人が多数派です。会社ではまじめな働きぶりが評価されている従順な労働者、家庭ではよき夫、よき父と思われている……驚きの声は、性加害者=異常性欲者=モンスターというイメージが裏切られたからでしょう。
納得の声を上げたのは、被害経験がある人たちだと思います。電車に乗っていて、誰が見ても警戒しなければならない人物が近づいてきたなら、たいていの人は移動して距離を置きます。そうではない人物がさりげなく背後に忍びより加害行為をしてくることを、痴漢被害に遭った人たちは知っているのです。
性加害者の多くは「自分はこれから性加害をするぞ!」と思って行動していません。むしろ、それが加害行為であるという意識すら、希薄な人も多いです。減るもんじゃない、ちょっと触るぐらいならいいだろう、スカートの中を撮ってもバレなければやってないのも同じという軽い気持ちで、痴漢や盗撮をします。性的DVやデートDVも、加害者にとっては「好きならセックスするのが当然」であって、愛情表現だと思っている節があります。強制わいせつや強制性交も「最初は嫌がっているが、しているうちに気持ちよくなってくるものだ」という思い込みからで、相手を痛めつけようという意図はないことが往々にしてあります。セクハラを「恋愛」だと誤解している加害者は多いです。だからこそ被害届を出されたり、昨今だとSNSで告発されたりすると、驚き、慌てふためき、「まさか、そんなはずはない!」と否認するのです。「自分のほうが騙されたんだ」と被害者意識を募らせる人もいます。