裁判になると検察官が被告(加害者)に「あなたは、性欲を抑えきれなくなり犯行に及んだんですよね」と尋ねます。これはとてもストレートな聞き方で、もっと歪曲的な方法が取られることもあります。情状証人として出廷した妻に「事件を起こす前、あなた方には夫婦関係がありましたか?」「セックスレスでしたか、どうでしたか?」と尋ねることで、被告は性欲をもて余していたということを裁判官に印象づけるというものです。私も情状証人として出廷することがあるので、こうした光景を何度も法廷で見聞きしていますが、即刻改めるべき慣習だと思っています。そこには、妻のせいで夫の性欲が暴走し犯罪行為という結果になった、というバイアスがかかっています。妻へのセクハラでもある点も問題ですが、さらに悪いことに被告本人がこの考えをインストールし、「だから自分が性加害をしたのは仕方がないんだ」という価値観を強化する道具に使うこともあります。

■「加害していい理由」は、社会にある

 私は「男性とは性欲をコントロールできない生き物だから、性犯罪を犯すものだ」という言説に、なぜ男性から反論が起きないのか不思議に思っています。これは男性から「違う、そんなことはない」とはっきり否定しなければなりません。友だちとの雑談中に性欲の高まりを感じても、その場でマスターベーションをする人はいません。私がこれまで対面してきた加害経験者のなかで、性欲の強さを訴えてきた人はごくまれです。その強い人ですら、実はちゃんと性欲をコントロールできています。交番の前や街の往来で女性を襲うことはなく、被害者や場所、状況や時間帯を慎重に選んで加害行為に及ぶからです。

 本当は加害した本人も「性欲からではない」ということはわかっているはずです。しかし裁判までの過程で、すっかり性欲原因論を刷り込まれ、自分が悪いのではなく、自分に我を忘れさせた性欲が悪いのだという、責任逃れの考え方に過剰適応しています。再犯防止プログラムでは、どうすれば自分は再犯を防げるかを考える機会がたびたびありますが、シートに「性風俗店を利用する」と記入する人もいます。これはまったくの、的外れです。風俗店で性欲を解消すれば犯行にいたらないのなら最初からそうしているはずですし、現に風俗店に頻繁に通いながら犯行を繰り返した人もいます。

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性加害の責任を女性に転嫁