再発防止をチェックする文科省の姿勢も問われる。全ての医学部について不適切入試の調査を昨年実施した文科省は、今年も同様の調査を続ける方針を当初は示していた。ところが本誌が5月に確認すると、担当者は「個別の大学に対して調査は実施しているが、全体に対して調査を行う予定はない」と説明。全ての医学部について調べたほうが再発防止を徹底できるのに、どうも“逃げ腰”のようだ。教育関係者からは次のように疑問の声も上がる。
「問題のあった大学に絞って調べる文科省のやり方は中途半端です。医学部全体の入試結果を調べ、女子の合格者が急増した理由などを分析すべきです」
医師になれば高収入が保証されるとの期待から、医学部の人気は高まっていた。だが、今年の入試では人気に陰りも見える。
「これまで『バブル』とも言える様相だった医学部人気が、終わった印象があります」
こう語るのは、医学部受験を専門とする河合塾麹町校の神本優・校舎長だ。
河合塾によると、国公立大の医学部医学科の志願者数は約2万5千人で、前年比98%と5年連続で減少。今年は私大でも志願者が減り、前年比94%(5月22日時点、順天堂大、東京女子医科大を除く)だった。
「長時間勤務など、医療現場の過酷な環境が知られるようになってきました。さらに女子差別の問題も重なり、医学部離れが進んでいます」(神本さん)
「バブル」と言われるように、これまでの医学部人気はすごかった。文科省によると、国公私立医学部の志願者数は08年に約10万6千人(一般、AO入試などを含む)だったが、18年には約14万3千人にまで増えた。
偏差値も大きく上昇した。1985年には偏差値50以下の私大も珍しくなかったが、19年では大半で偏差値65以上となり、70を超えるところは少なくない。東大の理Iや理IIよりも難しい私大もある。
ここまで人気になったのは、経済のバブル崩壊で会社員らの給料が下がるなか、医師の待遇の良さが突出しているためだ。厚生労働省の17年の調査によると、一般病院勤務の医師の平均年収は1488万円、町医者など一般診療所の院長だと2748万円。平均的な会社員の3~6倍にもなる。医学部に合格すれば、こうした高収入が期待できるのだ。