薬の中には、効果がないわけではないが、科学的な根拠(エビデンス)が乏しいものがあるという。聖路加国際病院(東京都)の有岡宏子医師(部長)ら内科・予防医療チームは、様々な臨床研究の論文から薬のエビデンスを検証した。非常に信頼性の高い臨床研究で効果が確認された薬は「☆☆☆☆☆」、副作用が有効性を上回る薬は「☆」など、5段階で評価。エビデンスへの意見が医師の間で分かれる「☆☆」の主な薬の評価について、有岡医師に聞いた。
【循環器科】
循環器系の薬は臨床試験が比較的しっかり実施され、EBM(Evidence-Based Medicine)が確立されています。ただ、そのなかで☆☆が多いのは、不整脈の薬です。
エビデンスを示すのが難しいのは、不整脈と一口で言っても原因やタイプが多様だから。ジゴシンは昔から経験的に使われてきましたが、エビデンスは乏しく、新しい薬剤が出てきてからは使う機会が減っています。アンカロン、タンボコールなどの抗不整脈薬は、不整脈のタイプや持病の有無などを考慮し、使います。
なお、最近は薬のほかにも、心筋焼灼術(アブレーション、不整脈の原因の組織を焼き切る治療)も行われています。薬を飲み続ける必要がないので、有力な選択肢の一つですね。
【内分泌・代謝】
痛風の治療では、発作が起きたときに消炎鎮痛薬を使います。経験的に痛み止めの効果があることが知られているので、痛みのある人に痛み止めを使わないということが倫理的に選択しにくいことはあります。
肥満の薬として米国などでは、食欲を抑えるサノレックスが非常に多くの人に使われています。ただ、効き目が徐々に落ちるうえ、薬をやめた後に体重がリバウンドしやすい。エビデンスがあっても、薬だけに頼るというのは考えもの。運動や生活の改善などとあわせて治療すべきでしょう。
【脳神経外科】
脳の病気は緊急性を要するものが多く、ランダム化比較試験をしにくい。記憶力低下などが起こるアルツハイマー病は、アリセプトなど抗認知症薬のエビデンスが高い一方で、認知症に伴う意欲の低下や不眠などの治療薬は☆☆です。ルボックスやレンドルミンなどは、患者さんと介護する家族の生活によっては必要な薬です。臨床研究はありませんが、専門医には支持されており、主治医とよく相談して必要に応じて使ってください。