これは「治療したくてもできなかった」ケースを示唆しているが、「治療なし」の背景にはさまざまな要因が混在していると考えられる。患者自らが治療を希望しないケースもあるのではないだろうか。

 日本対がん協会では、対面による無料のがん相談をおこなっている。肺がん相談を担当する平塚市民病院名誉院長の宮澤直人医師は、「16年5月ごろ、立て続けに高齢者から『無治療を選択したいが、そんなことは許されるのか?』という相談を受けた」と話す。宮澤医師はこう続ける。

「それまではそのような相談はありませんでした。相談者は『もし治療を拒否したら、主治医が怒り出すのではないか、そうすると病院と縁を切られてしまうのではないか』と心配しているのでした」

 相談者の年齢は、84~90歳といずれも超高齢者で、本人からの相談が1件、家族からが3件あった。85歳の男性は妻が相談に来た。ごく早期の肺がんで1年経過をみている間に腫瘍が大きくなり、主治医から強く手術を勧められたが、本人がその1年の間にからだが弱ってしまい、「もう手術を受けたくない」と言っているということだった。

「直接ご本人と話をできなかったためその真意は測り難かったのですが、治療のチャンスがある状況を詳しく説明しました」(宮澤医師)

 84歳の男性が相談に来たケースは、やや進行した肺がんだったが、手術で根治が見込めること、国立がん研究センターでは80歳以上の12%に手術をおこなっていることなどを話した。90歳の男性は認知症で、相談に来た妻は無治療を希望していたが、息子が逡巡していたという。

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