「基本的に主治医はがんを治すのが仕事であり、病院にかかっている以上、治療を前提として話が進みます。『治療しない』という選択を相談するのは難しく、私たちのような第三者である医療者に相談する人が増えていると予想できます。その相談に対し、まず治療しないことがもたらす意味を本当に理解しているのかを確認します。わかっていないようであれば、丁寧に説明します。しかし、わかっていて、死を受け入れている人に対しては、医療だけの問題ではなく、その人の死生観や生き方の問題になってきます」(同)

 近年、世間では、尊厳死や平穏死といったテーマが話題に上ることが多くなった。関連の書籍も増え、どう“終活”をおこなうかなども取り沙汰されている。延命治療を望まないと考える人も増えている。このような状況下では、特に根治できない進行再発がんと言われた場合には、治療を受けないで残りの人生を送ることを選択する人は増えているかもしれない。

 現在、早期の肺がんは、高齢者でも標準的な手術により8~9割は根治できるといわれる。

 しかし高齢者では、手術そのほかの負担により、がんは治っても認知機能や身体機能の低下によって日常生活に支障をきたす懸念がある。だが、その頻度や程度は明確ではない。

「これまでは、生存率という指標でしか治療効果を見てこなかったのです。生死の判定は容易ですから」

 そう指摘するのは、日本赤十字社医療センター化学療法科部長の國頭英夫医師だ。自身の専門である薬物療法について、高齢者に対しても「延命」のみを評価し、結果、医療費ばかりが膨らむ状況に危機感を訴える。

次のページ