「現時点では、高齢者が手術後にどのように暮らしているかを調べた大規模なデータは皆無です。QOL(生活の質)を数値的な指標で測ることは困難ですが、ADL(日常生活活動度)は測定できます。同じ『生存』でも、元気でいるのか寝たきりかは大違いで、誰も後者を望んだりしない。高齢者自身が望む治療をおこなうためには、治療後の追跡調査を生死だけでなくその中身(ADL)についてもデータを集め、それをもとに治療方針を立てる必要があります」

 國頭医師は、手術について、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)の臨床試験として、全国の主要四十数カ所の病院で、75歳以上で手術を受けた肺がん患者を登録して、患者のADLを半年、1年、2年と追跡調査していく観察研究の準備を進めている。

 肺がんで国内トップの手術数を誇る国立がん研究センター中央病院呼吸器外科長の渡辺俊一医師は、このJCOGの肺がん外科グループの代表だ。渡辺医師は、こう述べる。

「当科では手術できるケースでは85歳以上の人でも手術をしています。もちろん高齢者の場合はご本人の状態を十分考慮しますが、肺がんで『手術ができる』ということは根治が見込め、余命を延ばせる可能性があるということです。ただし、手術が成功し、合併症もなく退院されていっても、家に帰ってどんな生活をしているか大規模なデータはありません。もしかしたら、『治った』と思っているのは外科医の自己満足かもしれない。本当に手術がQOLまで含めてよい結果をもたらしているのか、それをきちんと検証するのがこの研究の第一目的です」

(ライター・伊波達也)

※週刊朝日 2017年12月8日号