イクメン不倫騒動の影でマタハラ… 金子恵美議員が涙した国会議員の“男社会”
国内での流通が認められていない「乳児用液体ミルク」の導入に力を入れる。お湯で溶かす必要がないため、育児負担の軽減はもちろん、衛生環境が整わない災害時にも役立つ。先月、推進派の小池都知事と面談した(写真部・長谷川唯)
日本の衆参両院の国会議員(717人)のうち、女性は94人。世界を見渡しても、日本の国会議員の女性比率は低い。彼女たちは男社会の永田町でもがき、懸命に闘っている。オヤジ化した自分と決別する女性議員も出始めた。金子恵美衆議院議員(38)=総務政務官=に話を聞いた。
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――“イクメン”で知名度を上げた夫、宮崎謙介衆院議員(当時)の不倫騒動。妻の金子恵美衆院議員は渦中で妊娠、出産を経験した。その体験談から男社会の実情が見えてくる。
宮崎(謙介氏)のことがあったので、大変つらい、苦しい思いもありました。でもおかげで、悩んでいる女性からメッセージが届くようになった。民間企業で働く多くの女性は結婚、妊娠、出産も含め、仕事との両立で悩んでいます。私自身もあの(不倫)騒動に関係なく、マタハラに近い経験もしましたから。
――昨年末から今年2月、金子氏と宮崎氏は社会の注目を集めた。発端は、昨年12月に宮崎氏が国会議員の育休取得を宣言したことだった。
騒動の件では、皆さんにご迷惑をおかけして大変申し訳なく思っています。今は子どもの存在が頑張れる原動力になっていますが、妊娠、出産についていろいろなことを言われました。衆院議員は、解散・総選挙がいつあるかわからない常在戦場ですが、「妊娠するタイミングもわからないのか」とか、「男(のような政治家)であり続けてほしかった」とも。私はおなかの大きな状態で国会に出ていました。(妊娠や出産は)女性にとって大切なことのひとつと考えていましたが、その姿に厳しいことを言う人もいました。
●女を政治に持ち込むな
――当時を振り返った金子氏。この瞬間だけ、悔しさで目を潤ませた。宮崎氏の育休宣言後、金子氏は衆議院の所属委員会の委員から外れた。
産休に入っていないうちから「もういつ休んでもらってもいい」と言われました。民間企業でいうポストがないのと同じですよね。ほかにも、「お前たち(夫婦の育休宣言)のせいで迷惑を被っている」とか、「女、子供を政治の世界に持ち込むな」とか。私は地方議員を含めて約10年、政治家をしていますが、女性が政治にかかわることを否定されたら、全否定ですよね。当時は絶望感が大きかった。
結局、意識改革が必要なんです。例えば、学校の保健体育の授業で女性の体の仕組みをタブー視しないで教える。教育を通じて、妊娠や出産がどれだけ奇跡的で、壮絶なのかが男性にもわかれば、意識改革にもつながる。政治というより、社会全体の話だと思います。
――宮崎氏の育休宣言はイクメン普及に取り組むNPOなどに好感され、国会議員の育休取得の法制化も浮上した。だが、金子氏が2月に男児を出産した直後、宮崎氏の不倫が発覚する。
時間が経って、地元を回る中で、人生の先輩に当たる50~60代の女性から「どの家庭にもいろいろあるのだから、簡単に離婚しちゃだめよ」とよく言われました。「たまたま日本中に恥ずかしいことが広まっただけで、負けちゃだめよ」とも。とてもありがたかったです。
私は、一度や二度の過ちによって人生が終わってしまう社会ではいけないと思います。もっと寛容な社会であってほしい。本人が反省して生まれ変われるなら、私はその可能性を信じて応援したい。そう思い、宮崎の手を離さない決断をしました。
●離婚しないからこそ
――宮崎氏は2月に衆院議員を辞職した。金子氏も猛烈な逆風にさらされた。
私の支援者の前で先輩議員から「我々の教育、しつけが悪かった。こんな議員を生んで申し訳ない」と言われたこともありました。そんな時、野田聖子議員や小渕優子議員、三原じゅん子議員といった先輩の女性議員に相談をしました。男性議員のなかにも、激励してくれる人もいました。
地方議員時代、私は「お嬢ちゃん」と呼ばれることもありました。それが嫌で、「おじさん」議員になるよう自分を切り替えた。でも今は母親になって、逆に気楽になったような気がするんです。私は女性で、妻で、ママであるほうが、強さを出せるんじゃないかと。無理して男になろうとするより、自然体の「お母ちゃん」でいるほうが強くなれるのではと思っています。
子育ては1人ではできない。今は両親が東京に来てくれ、宮崎もイクメンをしている。私も夜に帰宅して母乳で育てるなど、限られた時間でスキンシップを取るようにしています。
――かつてヒラリー氏も、夫であるビル・クリントン大統領(当時)の不倫騒動に巻き込まれた。
ヒラリーさんは男勝りという方もいますが、ヒラリーさんの強さは、妻であり、母であり続けたからこそだと思っています。守るものがある人は強い。自分のためだけじゃないから。ヒラリーさんも(ビル氏を)手放していたら、今の強さはないと思う。私もそうありたいんです。等身大の自分で、これまで自民党からは届きにくかった、有権者のママさんたちと向き合いたいです。
――世界経済フォーラムが毎年発表する各国の男女格差で日本は今年、144カ国中111位だった。昨年の101位から順位を下げた。金子氏は8月、総務政務官に就任した。
私が子育てしながら働き続けることに期待してくれる人もいる。子育てや介護をしながら仕事を続ける女性が大勢いる。そういった人たちの思いを受け、社会の環境を少しでも改善していくことが、私の責務だと改めて思っています。(構成/朝日新聞記者・石田耕一郎)
※AERA 2016年11月14日号
AERA
2016/11/09 11:30