■医療事故を招きかねない

 人材に投資しなければ、病院のレベルは上がりません。女医が増えた昨今、福利厚生が貧弱なまま、アルバイトに依存する生活を強いれば、優秀な人材は集められません。

 前出の都内の大学病院の准教授を務める医師は、「昼間、病棟には研修医以外いません。スタッフは外来、手術、そしてアルバイトに行かないといけないからです」と言います。大学病院の病棟が無医村状態になっているのです。患者の治療が二の次になれば、被害を受けるのは、やはり患者です。

 その象徴が、14年2月に東京女子医大で起こった医療事故です。頸部囊胞性リンパ管腫の硬化療法を受けた2歳の男児が、3日後に急性循環不全で亡くなりました。

 その後の調査で、人工呼吸中の男児が暴れないよう、小児への使用が禁止されている麻酔薬プロポフォールを用いたことが原因と判明しました。成人用量の2・7倍も投与されていたそうです。東京女子医大が依頼した第三者委員会は「投与中止後すぐに人工透析をしていれば、男児の命は助かった可能性があった」と指摘しました。

 東京女子医大では、小児に対するプロポフォールの過剰投与が常態化していたことも明らかになりました。13年末までの5年間、のべ63人に対し投与されていたそうです。病院側は、医療安全体制を見直し、15年2月6日には「平成26年2月に発生いたしました医療事故の件」という声明を発表しています。この中で、「法人組織での『医療安全管理部門』の設置」や「病院長直属の外部委員により構成する病院運営諮問委員会の新設」などの15項目を提言しています。

 事態を重くみた厚労省は、東京女子医大の特定機能病院の承認を取り消しました。特定機能病院は、大学病院などの高度医療を提供する施設に対し、診療報酬が優遇される制度になっています。東京女子医大に厳罰を与え、医療事故の再発を防止しようとしています。

 しかし、組織改革や厳罰では、医療事故はなくなりません。むしろ、東京女子医大のように特定機能認定を取り消せば、病院の医療安全体制は損なわれるでしょう。特定機能病院でなくなれば、益々、経営が悪化するからです。東京女子医大が発表した14年度の財務報告では、売上高利益率こそ1.4%と黒字ですが、収益の9.3%は補助金や交付金です。

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