東京女子医大ほどの名門病院のスタッフ医師が、普通に診療していれば、今回のような過剰投与は見落とさなかったのではないか。患者の安全性より「アルバイト」という医師の「生活」が優先されがちな背景があり、急変時の対応が後手にまわったのではと私は考えています。これは、組織論や職業倫理だけでは改善しない構造的な問題です。

 東京女子医大に限らず、首都圏の私大病院の医療安全対策の最大の課題は「アルバイトの合間に診療する体制」だと私は考えています。経営がひっ迫すれば、医師の給与を下げ、かわりにアルバイトを許可しなければ、医師はやっていけません。悪循環です。

 それを裏づけるように、首都圏の私大病院では医療事故が多発しています。社会の関心を集めた2000年代以降、首都圏の私大病院では埼玉医大抗がん剤過剰投与事件(00年)、東京女子医大人工心肺事件(01年)、慈恵医大青戸病院事件(02年)、東京女子医大麻酔薬過剰投与事件(14年)などが起こっています。貧すれば鈍するということでしょう。モラルを糾弾するだけではなく、医局員の立場に立った実効性のある対策が必要です。

※『病院は東京から破綻する』から抜粋

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上昌広

上昌広

上昌広(かみ・まさひろ)/1968年生まれ。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長。医師。東京大学医学部卒。虎の門病院や国立がんセンター中央病院で臨床研究に従事。2005年東京大学医科学研究所で探索医療ヒューマンネットワークシステムを主宰。16年から現職。著書に病院は東京から破綻する(朝日新聞出版)など

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