市民は血みどろになった犠牲者の写真や動画を、インターネットを通じて世界に伝え、惨状を訴える。ミャンマー国軍は、この通信手段の遮断に躍起になっていた。
南洋通信社は、そんな環境のなかで配信を続けていた。しかしその夜、ライブ映像はなかなかつながらなかった。音声だけは聞こえていたのだが、それも途切れがちになる。
3分ほどがたち、配信が難しいという説明があった。そして、「今日の南洋通信社は……」というところでぷちッと切れてしまった。真っ黒になったパソコンの画面をしばらく見続けていた。
こうしてミャンマーは、あの暗闇のなかに入っていってしまうのだろうか。内部でなにが起きているか、まったくわからない情況。
あの時代──。軍事政権時代も、ヤンゴンに住むミャンマー人と連絡をとっていた。電話が通信手段だった。あるとき、「電話は盗聴されているらしい。FAXにしたほうがいい」といわれた。
SNSが遮断されつつあるいま、残ってくるのは電話回線だけかもしれない。それもチェックされFAX……あの時代に帰っていくのだろうか。
■下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など