「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第45回は、クーデターが起きたミャンマーの現在の通信事情とこれから考えられることついて。
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ミャンマーのヤンゴンに住む知人にときどき電話をかける。現地の話を聞きたいという思いもあるが、無事にすごしているだろうか……という思いが強い。
その知人から南洋通信社というサイトを知らされた。クーデターを起こしたミャンマー国軍が摘発するかもしれないというリスクのなか、ミャンマーの情報を発信しているという。
ミャンマー国軍は報道関係者も次々に拘束している。国連などの発表を総合すると、20人近い記者が拘束され、数人の死亡者も出ているようだ。そのなかでの発信には覚悟がいるはずだ。
辿っていくと、このサイトを運営しているのは昔からの知り合いだった。彼から連絡が入った。「今晩、ライブをやるので観てください」という内容だった。
3月19日の夜、ネットをつないだ。しばらくして声が聞こえてきたが画像はない。今日はネットの状態がよくないことを伝えていた。
その日、ミャンマーでは、携帯電話のデータ通信が遮断されたことが伝わっていた。ミャンマー人の多くは、Wi-Fiではなく、携帯電話のネットを使って連絡をとりあうことが多い。そこでデモの情報を知り、大きな集会に発展していた。ミャンマー国軍は、その連絡網を断ち切ろうとしていた。
軍事政権に反対するミャンマー人の抗議行動は、1988年と2007年に大きなうねりがあった。2回とも軍は武力で弾圧し、多くの犠牲者が出た。その2回と今回の抗議行動との違いはSNSだといわれる。
10年前の民政化以来、ミャンマーの通信事情は一気に変わった。かつて1枚200ドルもしたシムカードが1ドル以下になった。