慈恵病院は女性が地元に戻る際、女性の成育歴と同院で出産した経緯について地元自治体の保健師と情報共有を行っている。女性は幼少期より被虐歴があり、児相に複数回保護されていた。予期せぬ妊娠を周囲の誰にも相談できず、慈恵病院を頼った。

 保健師は定期的に自宅訪問を行い、女性も来訪を受け入れた。女性は2時間おきに目を覚ます赤ちゃんを辛抱強く抱き、規則正しい生活を忠実に守った。赤ちゃんは清潔で健康だった。

■助けを求める力乏しい

 だが、昨年10月のその日、女性から「子育てがつらい」との訴えを受けて保健師と自治体の担当者は家庭訪問を行った。女性に保健師は「もう少し頑張って」と言葉をかけ、絶望した女性は慈恵病院に助けを求めた。「ウチはもう頑張れない、いますぐ助けてほしい」と電話口で泣きじゃくる彼女に、慈恵病院は「このままだと赤ちゃんを虐待してしまう」と児相に伝えるよう提案。児相職員が赤ちゃんを保護した。

 特定妊婦の産前産後支援が児童福祉法に記されたのは09年のことだ。特定妊婦とは「出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」。予期せぬ妊娠を誰にも相談できず内密出産を希望する女性は、本来なら特定妊婦として支援につながるべき人たちだ。だが、慈恵病院が運営する「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)への過去の預け入れ事例で実母と接触できたケースや、今年受け入れた7例の内密出産事例を同院が精神科医と連携して検証した結果、被虐待歴、ボーダーラインの知的障害または発達症(発達障害)、母子関係の問題のいずれかが複雑に影響していることがわかった。蓮田氏は内密出産を希望する女性たちについて「他者に助けを求めることが苦手な特性があり、特定妊婦を取り巻く環境より背景はさらに複雑で重たい」と分析している。なかでも被虐体験のある人の多くは、大人を信頼する経験をしておらず、助けを求める力に乏しい。

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