
■虐待は地域社会の責任
一時保護解除に必要な条件について、女性は納得ができず、児相に不信感を持った。白井氏はこの点を危惧する。
「養育能力を判断する姿勢では母親との間に信頼関係はつくれません。子どもの福祉に必要な母親を支える視点が、児相には欠けていないでしょうか」
白井氏の調査によれば、ニュージーランドやイギリスではソーシャルワーカーが取りまとめ役となって、家族、行政、保育園・学校関係者等が一堂に会して母子の支援計画を立てるファミリーグループカンファレンスという手法が成果を上げている。
「当事者を含めて関係する人たちみんなでアイデアと資源を出し合い、見通しを立てます。そして周囲が協力し合いながら、親の力を育てていきます。専門家が決定し、当事者が不在の日本の手法では親をエンパワーメントできないうえに、親の本来の力を奪う。それではいつまでも親に子どもを返せない悪循環を招いてしまいます」(白井氏)
他方、川崎氏は「親の養育能力が低かったとしても、地域社会が適切に支援を行っていれば子どもは育つことができます」と話す。
そもそも周囲の助けが少なく、他者に助けを求めることが苦手な傾向のある内密出産を希望する女性たち。彼女たちに対しては何より「支える」という視点が重要ではないか。
「虐待は地域社会の責任だと私たちは認識しなくてはならない」
川崎氏は繰り返しそう述べた。(ノンフィクションライター・三宅玲子)
※AERA 2022年12月12日号