「『自分の半径3メートル以内』の人たちに、いかに溶け込んでいけるか。そのことで年下社員との距離感が縮まり、結果的に職場で居場所を獲得していける人もいます」(河合さん)
前出の大塚さんは、突きつけられた現実を「会社から自分へ人生の主導権を取り戻す」きっかけにしては、と話す。
「もう、『何事も会社優先』から脱却することです。ときには会社の言うことにも従わず、ある意味わがままになってみる。50歳になったら、会社人間という『組織人』から、自分という『私人』の人生を取り戻す。取り戻せるのは定年後だとしても、そのリハビリを始めるんです」
冒頭の48歳の男性も、会社の仕事からは一歩身を引きつつ、リハビリを着々と始めている。
「組織を『卒業』した定年後も働く。そのために、50代はマンション管理士やドローンの操縦免許など、年齢に関係なく役に立ちそうな資格取得に努めたい。仕事の傍ら、通信教育を受け始めています」
組織から飛び出した人もいる。神奈川県に住む女性(46)は、約20年間「天職」とさえ思っていた小学校教師を辞め、今年4月からフリーランスになった。一昨年、別の組織に管理職として異動し、やりがいがなくなったことがきっかけだった。
■幸福度は爆上がり
「娘が大学進学を機に家を離れ、子育ても一段落。70代の両親はまだ元気。動くなら今がチャンス!と、安定した公務員から転身しました。向いてないことを続けるほど人生長くない」
昨年夏からオンライン講座で、仕事に生かせる新しい技術を学び、それを生かす仕事や、ベビーシッター兼家庭教師の仕事も請け負っている。
「フルタイムの仕事を辞めたことで収入は減りましたが、自分の時間もできましたし、幸福度は爆上がり、ですね」
仕事の時間や収入が減っても、幸福。前出の河合さんは、本当の幸せとは、「仕事・家庭・健康という三つのボールがジャグリングのように順調に回っていること」だと話す。
「自身の体力の衰えを感じたり、親が年老いて介護のことを考える必要が出てきたり。50歳の不安や危機感は、三つのジャグリングがより難しくなること。そんななか『自分のやりたいこと』に、勇気を出して一歩、踏み出してみる。そして組織や役職を取っ払った一人の人間として、楽しんでみる。そこで得られる気づきでまた一歩、前に進めると思います」
(編集部・小長光哲郎)
※AERA 2021年8月2日号より抜粋