AERA2022年11月28日号より
AERA2022年11月28日号より

■東日本大震災を上回る

 二つの地震を巡っては昨年12月、内閣府が公表した被害想定が衝撃を与えた。

 冬の深夜に日本海溝でM9.1の地震が発生した際、北海道えりも町や岩手県宮古市で高さ約30メートルの巨大津波が襲い、最大で約19万9千人が死亡すると試算したのだ。死者数は北海道が最も多く約13万7千人、青森県は4万人超、岩手県は1万人超を数える。建物全壊は22万棟、経済被害は31兆3千億円に及ぶ。一方、千島海溝地震でも、M9.3の地震で死者は最大約10万人とされる。これらの規模は、死者1万5900人を出した東日本大震災をはるかに上回る。

 死者のほとんどは津波に起因するが、被害を増幅させる要因に「寒さ」と「積雪」がある。北海道東部の太平洋に面した浜中町。防災対策室の串田之宣(ゆきのり)係長は言う。

「わずか10分の避難開始の遅れが、生死を分けかねない」

 町は、国の想定では最大23メートルの津波が襲うとされている。昨年10月、町では徒歩で高台に逃げる津波避難訓練を実施した。町民約500人が参加し、そのうち10~90代の50人に全地球測位システム(GPS)端末を携帯してもらい避難にかかる時間を分析した。その結果、地震発生から5分以内に避難を開始すれば、津波到達前に全員が安全に避難できた。だが、避難行動が10分遅れ15分後に開始した場合、ほとんどの避難者が浸水区域を脱することができなかったのだ。

 このシミュレーションを作成した、地方独立行政法人「北海道立総合研究機構」の戸松誠研究主幹(地域防災)は指摘する。

「冬場の避難は、暖かい格好で避難しなければいけないなど、相対として避難時間が遅くなります」

 一般的に日中の避難は、地震発生から避難開始まで約5分といわれる。だが、寒冷地の場合、防寒着など上着を着るための時間がかかる。また、いざ避難を始めても積雪の影響で時間がかかることになる。

■低体温症の危険がある

 10分を生み出すにはどうすればいいか。

 戸松研究主幹は(1)家の耐震化(2)家具の固定(3)避難場所・ルートの確認──の3点がとりわけ重要になってくると話す。

「まず、避難するには最低限、家が倒れないことが重要です。そのためには自宅の耐震化は図っておく必要があります」

 家が無事でも、家具が倒れて出入り口を塞(ふさ)ぐと避難ができない。家具の固定は徹底しておきたい。

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