「そして、いざ避難することになっても、避難場所と避難ルートを知らなければ避難行動を遅らせる原因となります。普段から防災訓練には積極的に参加し、速やかに行動に移れるようにしておくことが大切です」(戸松研究主幹)
津波から逃れても、厳しい寒さにさらされている間は危険が続く。内閣府が昨年12月に出した被害想定では日本海溝地震で約4万2千人、千島海溝地震で約2万2千人に低体温症のリスクがあるとした。低体温症は、寒さなどで体の熱が失われ体の奥の深部体温が35度以下になると症状が表れ、放置すれば死亡の恐れがある。リスクが高いのは高齢者や子ども、低栄養や内分泌系疾患のある人たち。東日本大震災でも低体温症で亡くなった人はいたとされている。
被害想定を受け、多くの自治体では毛布やカイロなど備蓄の買い増しを始めた。太平洋沿岸の岩手県陸前高田市では、防寒用のアルミブランケット1100枚を購入した。だが、これでは市の人口(約1万8千人)の1割にも満たない。
市の防災担当者は言う。
「防寒対策は、避難者自身にとってもらうしかない」
実際、自治体が全住民分を用意するのには限界がある。多くの自治体は、住民自身による「自助」の重要性を指摘する。
では、低体温症を防ぐにはどうすればいいか。
東北大学災害科学国際研究所の佐々木宏之准教授(災害医療)は、まずは「平時の備え」が大切と指摘する。
「雨具や保温性の高い衣類、タオルなどは防災リュックに入れておく。水やチョコレートなどのエネルギー源も必要です。避難所では、コンクリートの床に横になると熱を奪われていくので、断熱マットも準備しておくといいでしょう」
一番いいのは、疑似体験をすること。自宅で電気やガスを使わずに一晩過ごす「防災キャンプ」をしてみて、何が必要かを家族で話し合うことも有効だという。
もし低体温症になったら「ハザード(危害要因)からの回避」が重要になる。まず、風雨の当たらない場所に移動させる。服がぬれていれば乾いた服に着替えさせ、体を拭き重ね着をして保温する。意識があり誤嚥(ごえん)の心配がなければ、温かい飲み物を飲ませる。炭水化物やチョコレートなどでカロリーを摂取し栄養を補給することも大切。水分補給も重要だが、アルコールは血管を拡張させ体温を下げるので避けるべきという。
佐々木准教授はさらに、低体温症は沿岸部や寒冷地だけのものではないと警鐘を鳴らす。
「外気温マイナス風速が体感温度です。たとえば、外気温が3度で風速が5メートルであれば、体感温度はマイナス2度。そのままの状態でいれば、1、2時間でも命の危険が出てきます。こうした状況は、内陸部や西日本であっても、起こり得ることは知っていてほしい」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2022年11月28日号より抜粋