日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、その店主が愛する一杯を紹介する本連載。大好きな西武ライオンズの球場近くで自家製の手もみ麺で勝負した、埼玉でも指折りの人気店の店主の愛するラーメンは、修業先の店主がアナログすぎる方法で作る手打ち麺が光る一杯だった。
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■「3軍や育成の選手まで顔を覚える」 西武ライオンズが大好きなラーメン店主
西武池袋線・狭山ケ丘駅の西口から徒歩1分。「自家製手もみ麺 鈴ノ木」はある。2018年10月オープンで、開店4年目ながら埼玉でもトップレベルの人気を誇る有名店。「食べログ」では3.88点を誇り、埼玉のラーメン店では堂々の2位につく(2022年8月21日現在)。埼玉県幸手市出身の店主の鈴木一成さんが一玉ずつ手もみするモチモチの自家製麺が自慢で、ダシ感たっぷりのスープとの相性は抜群だ。西武ライオンズの大ファンの鈴木さんが、西武ドーム(現・ベルーナドーム)の近くで物件を探してオープンした。
鈴木さんは「六厘舎」「金町製麺」などの有名店を渡り歩き、独立にあたっては幼い頃から好きだった多加水の太麺で勝負をかけることにした。麺は自分で打ちたいと自家製麺にトライすることになり、製粉会社を調べ始めた鈴木さん。「六厘舎」で修業時代から通っていた「くじら食堂」の店主・下村浩介さんに前田食品という製粉会社を紹介してもらう。鈴木さんはここで運命を感じる。前田食品が地元・幸手市の会社だったからだ。
「自分の出身地である幸手の製粉会社の小麦粉を使わせてもらい、ラーメンで地元に恩返しができるならこんなに素晴らしいことはないと思ったんです。これこそご縁ですよね。幸手には今も母方の兄弟や両親が住んでいます」(鈴木さん)
まずは「くじら食堂」で使っている前田食品の小麦粉を使わせてもらい、2年半が経過。今年からは「鈴ノ木」専用粉を作ってもらえるようになった。
静かなところでゆったりやろうと狭山ケ丘を選んだが、雑誌での受賞をきっかけに口コミがどんどん増え「鈴ノ木」の人気はうなぎ登りに。店の前には行列が絶えなくなった。
「地元の人がふらっと寄ってくれる店を目指していましたが、行列が長くなりすぎてご迷惑をおかけしてしまうようになってきて、それが悩みでした。そこで今年から“記帳制”を採用し、紙に名前を書いていただいて、後でお呼びして入れるシステムにしました」(鈴木さん)
午前11時から記帳開始なので、名前を書いた後、一度帰宅してから戻ってくることもできる。この取り組みは地元の常連客からも好評で、夫婦2人でスムーズに営業をこなすためにはどうしたらいいのかを考えての選択だった。
「体力が続く限り厨房(ちゅうぼう)に立ち続けたいですね。妻と2人でやれるだけ続けたいです。ご夫婦で切り盛りされている(埼玉県)入間市の『Miya De La Soul』みたいなお店が目標です」(鈴木さん)
大好きな西武ライオンズの選手がいつ来ても大丈夫なように、選手名鑑を読んで3軍や育成の選手まで顔を覚えているという。
そんな鈴木さんの愛するラーメン店は、自身の修業先のひとつである「金町製麺」(東京都葛飾区)。「鈴ノ木」の自家製手もみ麺のルーツはここにある。