■他教科でも求められた数学的思考
さらに「非常に計算量が問われる出題」もあった。
「数学I・Aの第4問は、1次不定方程式を題材にした問題なんですが、後半で煩雑な計算が求められました。しかも、前半に立てた式を踏まえて解答していく形式なので、そこでつまずいてしまうと、後半はまったく手つかずという状況になってしまう」
さらに、富沢さんはこう続けた。
「数学II・Bもそうですが、第1問から目新しい問題が続いた後、このような第4問がドンとくるわけです。ですから、時間内に問題を全部終えられなかった受験生はかなり多かったと思います」
同様な出題傾向は他の教科でも見られ、問題文や図を与えて、複数の情報を解釈していく出題が多かったという。
今回、平均点予測の落ち込みがもっとも大きかった生物の出題についても、「図や文章など複数の情報を踏まえ、生物の知識を活用して考察することが求められる問題が増え、単に知識だけでは歯が立たない問題内容に変化しています」と、富沢さんは指摘する。
■「数学ショック」30年前にも
一方、「受験生側で十分な対策ができていなかった」と、あえて厳しく指摘するのは、駿台教育研究所進学情報事業部長の石原賢一さんだ。
「共通一次試験、センター試験の出題を振り返ると、どちらも1年目はやさしかったんです。昨年度、初めての共通テストもやさしかった。ですから、2年目となる今回のテストが難化するのは過去の例からしてほぼ間違いなかった。それは、受験生や高校の先生にかなり言い続けてきたことでもあるんです」
石原さんによれば、センター試験2年目の1991年度は、初年度に比べて数学Iが-22.7点と、大きく下がった。このときも『数学ショック』と言われたそうだ。
「特に去年の数学は異常にやさしかったので、今回はこのような結果になったのでしょう」
昨年度から始まった共通テストについて、大学入試センターは、「思考力や判断力、表現力などを発揮して解くことを重視した問題」を出題すると明示していた。
「今回、話題になった数学の『太郎と花子』問題とか、現実的なシチュエーションのなかで数学を使っていく出題というのは、5年前の試行調査、いわゆるプレテストのときからあったんです。センター試験のように、単に数式をいじっていれば解答できるような問題はなくなっていくことは明らか。ところが、30年続いたセンター試験の感覚をいまでも引きずっている受験生や高校の先生がまだ大勢いると思われます」