■新型コロナで機会が失われた

 石原さんは、センター試験の過去問題を繰り返し解くような受験対策は「もう通用しない」と指摘する。

「今回の数学の問題について、複雑な文章題や煩雑な計算が求められることをやり玉に挙げて『このようなつくりの問題はいかがなものか』と、発言する識者の方がいらっしゃいます。でも、少なくとも受験生を指導する立場でそんなことを言ってはだめですよ。生徒たちが点を取れなかったら大学に行けないわけですから」

 これからは、知識中心型ではなく、課題解決型の学習に力を入れていかなければならない、としたうえで、こう強調する。

「はっきり言って受験生が戸惑ったような新作問題は、学校現場ではなかなかつくれません。複数の先生のグループで、議論を重ねないとできませんから。われわれは試行調査のころからそれを分析してきましたが、ああいった問題の演習を重ねないとだめでしょう」

 ところが昨年の数学の問題がかなりやさしかったので、今回「甘えが出てしまった」と石原さんはみる。さらに、新型コロナの影響で、新作問題に対応する機会を十分に得られなかった。この二つの要因が重なったためにこれだけの低得点になったと分析する。

「かわいそうなのは、いまの高校3年生は2年生のときから一斉休校など、新型コロナの影響を大きく受けたことです。模擬試験を受けようにも会場の定員制限があって、従来のような演習量を積み重ねることができなかった。そんな社会状況が影響したことは否めないと思います」

■今年の「ボーダーライン」は

 今回の共通テストは全体の平均点が下がったため、国公立大学の第1段階選抜の基準となる「ボーダーライン」も下がる見込みだと、石原さんは言う。

東大だと、かつてのセンター試験では9割の得点が必要でした。でも、今回は7割くらい取れれば、第1段階選抜はクリアできると思います。予測通過ラインは文科1類が585点、もっとも高い理科1類で630点。特に文科を志望する受験生は、1次通過ラインはあまり意識しなくて大丈夫でしょう。ほかの難関大学でも、昔のように第1段階選抜が厳しいところはなさそうです」

 では来年度の共通テストはどうなるのだろうか。

「今年の反動でやさしくなるんじゃないか、という期待はしないほうがいいと思います。例えば国語では、試行調査で話題になった『実用的な国語』問題は、まだ本格的なものは出ていない。出題者は、より思考力を試す問題を練っているでしょう。もうセンター試験は忘れましょう、ということです」

 今後についてはこう予測する。

「今後の共通テストでも、無から有を生むような創造性のある考え方を引き出す問題が出題されるでしょう。それは文部科学省だけではなく、社会全体の要請でしょう」(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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