アンガマ(沖縄県・石垣島)撮影:石川直樹

■ふつうの青年が変身していく

 さらに石川さんは、祭りにやって来た見物客も画面に写し込みたいという。

「例えば、その年の行事でカメラを構えた人が何十人も並んでいる、っていう状況も撮りたいんですよ。大勢のなかに仮面が出てきて、もみくちゃにされるような行事があれば、観客が少ないところもある。ぼくはその両方が等しく好き、というか、どういう状況であっても、『祭りの日』を丸ごと記録したい、という気持ちが強くある。ただ、それは『取材』っていう感覚ではなくて、旅行に行って、撮った、という感じです」

 一方、石川さんは「いろいろステップを踏まないと出合えない。だからこそ、慎重に撮りに行きました」とも言う。

「例えば、地元の公民館の館長や教育委員会にあいさつをして、撮影の理由を説明して許可をもらわなければならないときもある。前日とかにやって来て、ささっと撮れるものではないですね」

 特に仮面をかぶり、仮装する様子は人の目に触れることはほとんどない。

「ふつうの青年が仮面をかぶることによって、人間から神様に変身していく。そこで、陶酔状態というか、中身が入れ替わるように人間の言葉じゃないことを叫んだり、ドアをガンガンたたいたりする。彼岸と此岸(しがん)の境界を越えていくみたいな感じがする。そういうプロセスも全部撮りたいんです」

■ちょっとピンボケでも

 基本的な撮影スタイルは、大きな中判カメラを三脚に据え、レンズを絞り込んでシャッターを切る。

 それは「できるだけ画面全体にピントを合わせたいから」なのだが、「手持ち撮影の場合は、なかなかそうはいかない」。

 特に、ナマハゲのような、夜に現れる来訪神の撮影では難易度が増す。

「アナログのフィルムカメラで、必死に相手を追っかけていく。フラッシュをたいたりしながら写すんですが、ピントを合わせるのがすごく難しい。でも、ちょっとピンボケになったりしながらも、その場の空気のなかで撮っていくことが、ぼくにとっては大切なんです」

 そんな作品「まれびと Wearing a spirit like a cloak」が2月12日から東京・六本木のamanaTIGPに展示される。

 この「まれびと」について、石川さんが敬愛する民族学者・折口信夫は、こう書いている。

<時を定めて来り臨む大神である。(大空から)或は海のあなたから(中略)来るものと、その村々の人々が信じてゐた神の事なのである>(『折口信夫全集4』中央公論社)

 石川さんの作品を見ると、さまざまな異形の神の姿に目が引きつけられる。だが、それ以上に、祭りに向き合う人々の表情に強く引かれた。凛々しさや緊張感だけでなく、来訪神を取り巻く笑いや恐れ。地元の暮らしと一体となった祭りは実に生き生きとしている。作品にはそんな空気が染み込んでいるように感じた。

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】石川直樹写真展「まれびと Wearing a spirit like a cloak」
amanaTIGP(東京・六本木) 2月12日~3月19日

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