■受験生に負荷をかける指向性
今回の入試では日常生活を題材にした問題が複数出題された。その一つに中村教授は「違和感を覚えた」という。それが先に挙げた数学II・Bの第4問。問題文では、「歩行者は時刻0に自宅を出発し、正の向きに毎分1の速さで歩き始める」といった設定が出てくる。
「問題文にある歩行者と自転車の速度に『時速何キロ』とか、単位が入っていなくて不自然なんです。歩行者や自転車の動きをリアルに想像して問題文を理解しようとすると、いきなり『1』とか、単位のない数字が出てきて、抽象的なシチュエーションに持っていかれます。速度の単位が入っていないのには何らかの理由があったのかもしれませんが、あえて現実的なシチュエーションを想定してつくった問題に抽象的なものが入り込んでいる。問題としての一貫性がないと思います」
今回の共通テストは、「欲張っていろいろな要素を無理やり試験にのせて受験生に負荷をかけることで、さまざまなことを成し遂げようとする指向性が強すぎる」と中村教授はみる。大学入試は「シンプルなものにすべき」というのが、中村教授の持論だ。
「入試では基礎能力を中心にしっかりと測る。大学の入学者選抜はそれで十分です。なのに、思考力を測りたいというお題目のために、たくさん文章を読ませたり、無理に対話文をねじ込んだりして受験生を混乱させている。それで、時間切れになってしまうくらいだったら、入試問題はシンプルなほうがいい。思考力を伸ばしたいのだったら、大学教育でそれをカバーすればいい。ゼミや実験・実習、卒論で高度な思考力を育成することは十分可能です。そのための予算と人を大学に振り向けたほうがずっと効果的でしょう」
センター試験が共通テストへと変わって2年。共通テストを含む今回の大学入試改革は、これまでの「知識中心型」から「思考力」を重視する方向性へとかじを切ることを意図したものだ。その背景にあるのは、「生徒が未来社会を切り開くための資質・能力をいっそう確実に育成することを目指す」新しい学習指導要領だが、共通テストで測る力は、よりよい社会を切り開く力につながるのか。