山元さんは18年まで毎年、東欧に通った。何がそれほど山元さんを引きつけたのか?
「そこで感じたのは、人と自然との距離の近さ。湖があったらすぐに裸になって飛び込んだり、きのこをとって食べたり、たき火をしたり。そういうことが遊びになっている。ロシアの人はダーチャというサマーコテージを持っていて、普段、街に住んでいても、夏になるとダーチャに行って電気や水道がない暮らしをする。そんな自然との親密なつながりにとても共感した。人々と自然がすごく溶け合って、それが人間の中から浮き出ているような感じがした」
■アフリカで東欧との大きな違いを実感
19年、一転して、山元さんはアフリカのマラウイを訪れる。
「東欧とはまったく別の土地で撮影して、人間の中にある普遍的なものを見せたかった」
訪ねたのは首都リロングウェから北へ約300キロのところにある小さな村。
「友人の知り合いの看護師さんの家に2週間くらい滞在させてもらったんですが、とても穏やかな村でした。そこで子どもたちを撮らせてもらった。みんなすごく純粋で、笑顔があふれていた。質素な暮らしに見えるけれど、ほんと幸せに暮らしているって感じ。電気がなくても、太陽とともに生きている。ここでも自然とのつながりを強く感じました」
一方、生まれ育った環境がいかに人間に大きな影響を与えるか、気づかされた。
「東欧との違いを感じる瞬間も多かったです。人は周囲の風景を反射させる鏡のような存在だと思っているんですが、それを改めて実感した。あと、心の開き方がとても早くて、表情から自意識がなくなったような姿に見えるのがすごく早かったです」
東欧で写した作品と見比べると、ずいぶんイメージも明るくなった。
「私としては、ずっと同じ態度で向き合っているつもりなんです。でも、『昔の作品は苦しい感じがしたこともあったけれど、マラウイの写真は、とても楽しんでいる感じがする』って、言われたりします。『アフリカ、日本と、異なる土地での撮影を通して作品に広がりが出て、優しくなった』とも」
最新の写真集『We are Made of Grass, Soil, Trees, and Flowers』(T&M Project)にはマラウイで撮影した作品のほか、ベラルーシや北海道、沖縄で写した写真が収められている。撮影した場所がまったく違うのにそれを感じさせないのが不思議だ。ポートレート写真なのに、山元さんの自然に対する深い愛情が伝わってくる。
(アサヒカメラ・米倉昭仁)