障がい者スポーツの祭典、東京パラリンピック2020が開幕する。選手たちの足となり、持てる力を最大限に引き出す競技用車いすも時代と共に進化してきた。あまり知られていない競技用車いすに隠された技術について、競技用車いすメーカー・オーエックスエンジニアリング(千葉市)に聞いた。
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「鬼キャン」という言葉をご存じだろうか。
車や車いすを真正面から見たときのタイヤの角度を「キャンバー」というが、タイヤが思い切り「ハ」の字を描く状態を俗に「鬼キャン」と言う(極端=鬼、という意味で使われる)。
いわゆる、ドレスアップされた車でも見かけるが、究極の運動性能を追求した競技用車いすの世界では、この「鬼キャン」が当たり前なのだ。
一般用の車いすが使い勝手や乗り心地を追求した乗用車とすれば、競技用車いすはまさにレーシングカー。実際に乗ってみると、動きの滑らかさは別次元、というくらい違う。
世界トップのパラアスリート用ともなれば、さらに極めてシビアなセッティングが施される。
「競技用車いすは選手といっしょにものすごい時間をかけてつくり上げるんです。一人一人の体や動きに合わせてつくりますから、一見、同じように見える車いすでも、微妙に違う。だからみなさん、予備機を持たない。乗り換えて、ちょっとでも合わなかったらダメなんです」
オーエックスエンジニアリングの川口幸治さんはそう説明する。
同社は東京パラリンピックで主将を務める車いすテニスの国枝慎吾選手をはじめ、国内外のパラアスリート向けに競技用車いすを30年ちかく開発製造してきた。これまで同社の競技用車いすを使った選手が獲得したメダル数は100個を超える。
■座っていられないほど回る
一般の車いすは住まいに合わせた大きさや、持ち運ぶ際に折り畳めるなど、日常生活での使い勝手を重視したつくりになっている。
一方、競技用の車いすは個々の競技に特化したつくりになっており、激しい動きと転倒しにくさを重視した球技用と、ひたすら速さを追求した陸上競技用とに大別される。