陸上競技用の車いすは3輪で、前輪が前に大きく突き出ているのが特徴。カーボンフレームのしなりを利用して速度を増す(写真はオーエックスエンジニアリング提供)
陸上競技用の車いすは3輪で、前輪が前に大きく突き出ているのが特徴。カーボンフレームのしなりを利用して速度を増す(写真はオーエックスエンジニアリング提供)

■極限までそぎ落としたつくり

 一方、「レーサー」と呼ばれる陸上競技用の車いすは球技用とはまったく異なるつくりの3輪で、前輪が大きく前に突き出た形状をしている。

 後輪は「ハ」の字になってはいるものの、球技用に比べると、その角度は13度前後と、狭い。

「真っすぐ、速くこぐために角度を狭くしています。狭い方が脇が開かず、腕を思い切り下に向けてこげる。コーナーで横転しないように『ハ』の字がついていますが、旋回性能はまったく考えられていません」

 一応、ハンドルもついているが、「基本的にハンドルを操作する時間はないです」。

 トラックのコーナーに入るときは「トラックバー」というレバーをたたいて前輪の方向を変えるとともに、体重移動で微妙に進行方向を調整する。

 骨組みとなるフレームはカーボン(炭素繊維強化プラスチック)製。

「特に長距離ではカーボンフレームを使う人が多いです。路面からの振動を吸収してくれるうえ、カーボン独特のしなりが車輪の転がりを増してくれる」

 一方、速く走るためだけの車いすなので、軽量化のために極限までそぎ落としたつくりになっている。

「走るのに必要ないところは弱くてもいい、という設計思想なので、陸上用はいちばん壊れやすい。サブトラックで練習をしているとき、接触事故で壊れることがけっこうあります」

バドミントン用の車いす。急発進、急停止を重視したつくり。後ろに大きく反って打つことを想定して、ほかの競技用車いすに比べて後部の強度を上げている(写真はオーエックスエンジニアリング提供)
バドミントン用の車いす。急発進、急停止を重視したつくり。後ろに大きく反って打つことを想定して、ほかの競技用車いすに比べて後部の強度を上げている(写真はオーエックスエンジニアリング提供)

■昔はすべて外国製だった

 30年前、日本選手はみな外国製の競技用車いすを使っていたという。

「陸上競技用の車いすは採寸がシビアなので、わざわざアメリカの工場に行って採寸するんですけれど、それでもかなり大ざっぱだった、という話はよく聞きました」

 その後、状況は一変。川口さんの知るかぎり、今大会の日本選手は全員、国産の競技用車いすを使用しているという。

「選手の細かい要望を反映できるという点では国産品は有利です」

 その要望はトップ選手になればなるほど絞られてくる。

「選手自身が何が必要か、よく分かっている。例えば、国枝選手なんかは、仕様を変えるのをすごく嫌がります」

 まさに「人車一体」。選手と車いすが一体となったかのような華麗なプレーがもうすぐ私たちを魅了する。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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