テニス用の車いす。ほかの競技用車いすよりもタイヤの「ハ」の角度が大きく、約20度(写真はオーエックスエンジニアリング提供)
テニス用の車いす。ほかの競技用車いすよりもタイヤの「ハ」の角度が大きく、約20度(写真はオーエックスエンジニアリング提供)

 ほぼすべての競技用車いすに共通するのが冒頭に書いた「鬼キャン」で、特にテニス用では約20度もの角度でタイヤが取り付けられている。

「テニスボールを追いかけたり、バスケットボールでディフェンスをしたりとか、俊敏な動きをするには、タイヤが『ハ』の字になっているほうが軽い力で素早く旋回できるんです。特にテニス用は『ハ』の字の角度が大きくて、旋回性能が高い。ふつうの人が乗ると上半身が振られてしまい、座っていられないくらい素早く旋回する。そのくらいでないとボールに反応できない」

 面白いのは、同じ球技でもバスケットボールの場合、ポジションによって、「ハ」の字の開き具合が違うことだ。

「例えば、センターの選手の車いすは『ハ』の字の開きが狭い。幅が広いとゴール下の相手選手が密集したところをすり抜けにくいですから。逆に、ガードのポジションの車いすは『ハ』の字の角度が大きくなっています」

 ちなみに、バスケットボール用の車いすには相手とぶつかることを想定して前面にはバンパーがある。

バスケットボール用の車いす。相手守備の間をすり抜けやすいように、タイヤの傾斜は約18度にして全幅を抑えている。前面にバンパーがついている(写真はオーエックスエンジニアリング提供)
バスケットボール用の車いす。相手守備の間をすり抜けやすいように、タイヤの傾斜は約18度にして全幅を抑えている。前面にバンパーがついている(写真はオーエックスエンジニアリング提供)

■後ろ重視のバドミントン用

 タイヤを『ハ』の字にすることで運動性能だけでなく、安定性が増し、急旋回しても転倒しづらくなる。

 さらに、後部には転倒防止のキャスターも取り付けられている。

「競技用車いすは腕の力を効率よく車輪に伝えるため、車軸のかなり後ろに背もたれがある。つまり、重心が後ろにあるぶん、ひっくり返りやすい。それを防止するためにキャスターを設けてある。後ろに転倒する恐れが少なくなるので、上体をより後ろに反らすことができる」

 特に「後ろ重視」でつくられているのがバドミントン用で、見るからに丈夫そうな太いフレームの先端にキャスターがついている。

「バドミントンは、選手によっては上体がほぼコートと平行になるくらいまで反り返って羽根(シャトル)を打ち返す。背もたれもほとんどない。後ろに反れば反るほど、車いすの動きが少なくてすみます。拾える羽根も多くなる」

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極限までそぎ落としたつくり