種明かしをされれば「ふつうの場所。別に何てことのない場面」なのだが、それが別の世界の出来事、異界が現れたように見えるのがなんとも不思議で、巧妙なトリックを見せられているような気分になる。
そこでふと、ある写真家の名前が思い浮かんだ。その人は「婆バクハツ!」「東京 都市の闇を幻視する」などの作品で知られる内藤正敏さん。都市の内側にある闇の世界を写しとった写真家だ。
「目には見えない、もののけのようなものを写したところは内藤さんの作品に似ていますね」と、私が言うと、「確かに、そういうイメージはありますね」と、鈴木さんがうなずく。
「常にそういうものを狙っているわけじゃないんですけれど。なんか、そういうのにピッと反応しちゃうんですよ。なんか、(あっ、見つけた)みたいな感じで」。
一人の子どもが「はい」っと、手を上げるのを見るような感覚
不思議だ。どうやら、鈴木さんはふつうの人がまったく反応せずに通り過ぎてしまうような目の前の出来事に何かを感じとっているようなのだ。それに瞬時に反応してカメラを向ける独特の映像感覚。
そんな感想を口にすると、困惑するでもなく、「そのへんの感覚はふつうの人とは違うかもしれないですね」と、むしろ納得したような顔つきで言う。そこで話し始めたのは鈴木さんが生業としている手相のことだった。
「手相って、手の線から何かを感じとるんですよ。線を見て、何かをキャッチする。線の奥にある、ビビットくるものに目がいっちゃうんです」
それは学校の授業で、大勢の生徒がいるなかで、一人の子どもが「はい」っと、手を上げる姿を見るような感覚だという。
「手のひらにたくさんの線があるなかで、例えば、生命線が『私を見てください』と手を挙げているように感じる。私の場合、ほんとうにそういう感じで手相を見ていくんです」
「写真でも、何でこんなところに目をつけるのか、と言われれば、何かそこの光景がぱっと手を挙げているから。それを見て、(ああ、撮ってほしいのか)と思うんです」
そこまで話すと、ハッとしたように言った。
「いま、初めて気づきましたけど、そう言えば、手相を見るときと同じ感覚なんですね」
前々から、ミステリアスな作品だと思っていたが、鈴木さん自身も言いようのない不思議な感覚器を持つ人だった。まさに「異能の人」である。
(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)
【MEMO】鈴木サトル写真展「奈落」
Nine Gallery 1月26日~1月31日