写真家・鈴木サトルさんが作品集『奈落』(日本写真企画)を出版した。鈴木さんに聞いた。
世の中には写真作家となる道筋がいくつかあるが、写真雑誌の月例写真コンテストに応募して腕を磨き、写真家となった人は珍しくない。大竹省二さん、植田正治さん、荒木経惟さん……。今回、写真集を出す鈴木さんもその一人で、私はその一端をリアルタイムで見てきた。
3年前、私は「アサヒカメラ」の月例写真コンテスト「モノクロプリントの部」担当の編集者だった。選者は中藤毅彦さん。
鈴木さんの初入選は2018年1月号。作品「Wolf」が4位に選ばれた。
4月号では「めまい」が2位入選。暗いトーンの画面に、いまにも倒れそうな女性がブレて写り、不安をかきたてる、危うい印象が強く残った。中藤さんは、選評の終わりにこう書いている。
「願わくは、この疾走感の先に核(テーマと言い換えてもよい)となるような、なんらかの切り口を見い出せれば、さらに力を増すと思う」
その後、編集部に届く鈴木さんの作品は厚みを増し、ぐいぐいと速度を上げ、疾走していった。そして見事、1年間を通しての総合優勝、年度賞を獲得するのである。
授賞式の会場で中藤さんは鈴木さんに、こう語りかけた。
「ぜひ、作家として作品を発表していっていただきたい」
今回のインタビューでは開口一番、鈴木さんは授賞式での思い出を振り返った。
「実は、あのときの中藤さんの言葉がいちばん響きまして。作家として写真を本格的にやっていきたいな、という気持ちが湧き上がってきたんです」
それまでの作品は「入選するため」「誌面に載るため」に写した、いわゆる「コンテスト狙いの写真」だった。
しかし、受賞後は「本当に自分が撮りたいもの、自分がいいな、と思うような世界観を追求するようになって、それがどんどん固まっていったんです」。
きれいなのものが撮れるんじゃないかと、わくわくして買ったカメラ
実をいうと、私は応募作品以外、鈴木さんがどのように写真を撮ってきたのか、まったく知らなかった。しかし、それを聞いたとき、愕然とした。
「ぼくは2016年に初めてカメラを買ったんですよ。一眼レフを」
「えっ!」
「アサヒカメラ」に応募するわずか1年前である(初応募は17年秋)。しかも、カメラを購入したのはまったく偶然だったという。
「東京・有楽町のビッグカメラで。たまたま通ったときに、(ああ、カメラもいいかな)と思って、衝動買いをしてしまいまして。きれいなのものが撮れるんじゃないかと、わくわくして買ったんです」
初めて購入したカメラを手にニンマリとする鈴木さんの顔が思い浮かんだ。しかし、目の前に置かれた作品とのギャップがあまりにも大きすぎて、困惑してしまう。それをよそに鈴木さんはしゃべり続ける。
「カメラを買ってしばらくして本屋に行ったら、そこで『フォトコン』を見つけたんです。何の本だかわからなかったんですけれど、面白そうだなと、買ったら、写真コンテストの雑誌だった」