「不安を和らげる薬。バカバカ飲んで試験を受けた」

 いまも安定剤は欠かせない。仏教書や哲学書が好きでフロイトやユングをむさぼり読んだ。中学、高校時代の愛読書は唐木順三の『無用者の系譜』。

「世間から無用者と見られようと、自分の良心にしたがって生きる。松尾芭蕉とかさ。『予が風雅は、夏炉冬扇のごとし』。しびれるぐらい格好いいよね。そういうのがヒーロー。だから世の中に受け入れられる人になるのは最初から諦めていた」

 人の精神を救う仕事につきたいと一時僧侶を目指したことも。多額の資金が必要というので高校生の時に諦めた。中世史を専攻したのは、古代や近世に比べて、貴族、武士、寺社勢力、農民と様々な階層が存在していた面白さがあるからだ。

「いまは自由や平等、平和を当然のように思っている。だけど中世にはそんなものなかった。それを知れば、現代の価値がいかに大事かわかる。そういう意味でも、歴史を学んでほしいと思うな」

(文中敬称略)
 
■ほんごう・かずと
1960年 東京の下町で生まれる。母親は孟母三遷を地でいく教育熱心な人。
 67年 地元の小学校ではなく、東京都千代田区立麹町小学校入学。片道1時間の電車通学。ピアノ、絵画、習字、英語など、多くの習い事に通う。家族で行った京都、奈良旅行がきっかけで古代史好きになる。
 73年 東京の私立・武蔵中学校入学。
 74年 死への恐怖からパニック障害になる。仏教書を読み、僧侶になることを考え始める。
 76年 同高校入学。
 79年 東京大学文学部入学。2年生の時、現在の妻で、東大史料編纂所教授の恵子と大学の全学共通ゼミで出逢う。
 88年 東大大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。日本中世史を学ぶ。東大史料編纂所助手。『大日本史料』第5編の編纂に当たる。
 95年 『中世朝廷訴訟の研究』を東京大学出版会から刊行。
2000年 古文書愛好家と「古文書研究会」を始める。
 04年 『新・中世王権論 武門の覇者の系譜』を出版。以後中世の歴史を中心に、商業出版として、著作を多数出版。
 05年 東大大学院情報学環助教授。
 06年 AKB48に強い関心をもち、東京・秋葉原の「AKB48劇場」通いを始める。
 08年 東大史料編纂所准教授。
 12年 東大史料編纂所教授に就任。NHK大河ドラマ「平清盛」の時代考証を担当。
 13年 「AKB48選抜総選挙」の事前予想と事後の「感想戦」などでテレビに討論者として出演。
 19年 新元号「令和」について、テレビ朝日の番組で令という字に命令や令色などの意味があるとして歓迎できない旨の発言をし、ネットで炎上。「この歴史、おいくら?」(BSフジ)にご意見番として出演を開始。
 20年 これまでに歴史関連の著作は、30冊近い。2月に『日本史を変えた八人の将軍』(作家、門井慶喜との対談・共著)を出版。

■高瀬毅
1955年、長崎市生まれ。明治大卒。ニッポン放送を経て、フリー。著書に『ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」』『本の声を聴け』など。本欄では西田敏行、磯田道史、林修、白井聡などを執筆。

AERA 2020年3月16日号

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