古文書を収蔵した東京大学の書庫。「きょうは、ツラ(顔)の調子もいいですよ」と冗談をとばした(撮影/倉田貴志)
古文書を収蔵した東京大学の書庫。「きょうは、ツラ(顔)の調子もいいですよ」と冗談をとばした(撮影/倉田貴志)
この記事の写真をすべて見る

東大史料編纂所では個別の部屋はなく、同僚と机を並べる。『大日本史料』12編の第5編の編纂を担当。中世・鎌倉中期の原典のわずか3年分を30年かけて記述して残す。地道な仕事だ(撮影/倉田貴志)
東大史料編纂所では個別の部屋はなく、同僚と机を並べる。『大日本史料』12編の第5編の編纂を担当。中世・鎌倉中期の原典のわずか3年分を30年かけて記述して残す。地道な仕事だ(撮影/倉田貴志)
歴史バラエティー「この歴史、おいくら?」(BSフジ)の番組収録で、鎌倉の鶴岡八幡宮へ。司会のタレント・原田泰造(左から2番目)、アシスタントのアナウンサー・佐々木恭子(右端)との呼吸がいい。視聴者の反応も上々だ(撮影/倉田貴志)
歴史バラエティー「この歴史、おいくら?」(BSフジ)の番組収録で、鎌倉の鶴岡八幡宮へ。司会のタレント・原田泰造(左から2番目)、アシスタントのアナウンサー・佐々木恭子(右端)との呼吸がいい。視聴者の反応も上々だ(撮影/倉田貴志)
毎月2回、東大(東京・本郷)の近くで開く「古文書研究会」。古文書愛好家十数人と中世の記録を丹念に読む。「ここは上下関係がないからとても楽しい」(撮影/倉田貴志)
毎月2回、東大(東京・本郷)の近くで開く「古文書研究会」。古文書愛好家十数人と中世の記録を丹念に読む。「ここは上下関係がないからとても楽しい」(撮影/倉田貴志)

※本記事のURLは「AERA dot.メルマガ」会員限定でお送りしております。SNSなどへの公開はお控えください。

 豊富な知識と、語り口の上手さで、歴史番組の解説役としても人気の本郷和人。笑いを取りつつも、研究者としての信念はかたい。たとえ世間の潮流に逆らっても、自分の研究に基づいて語る。その言葉が批判を受けても、世におもねることはしない。楽しく、分かりやすく。それでも、国立大学の中世史研究がなくなると危機感を抱くほど、若者の歴史への興味が薄れている。

 今年1月16日。歴史学者の本郷和人(59)は、自民党の勉強会「まなびと夜間塾」に講師として招かれた。開口一番、こう切り出した。

「最初に懺悔をいたします。私、令和という素晴らしい元号にミソをつけまして、大炎上をいたしました」

 会場から笑いが起きた。同党中央政治大学院主催の開講記念講座。テーマは「日本史のツボ」。本郷の著書の一つと同名のタイトルだった。

 テレビの歴史番組の解説役としてしばしば登場する。まるっこい体躯。どことなく愛嬌のある語り口に親しみを覚える視聴者も多い。出演する「BSフジ」の歴史バラエティー「この歴史、おいくら?」のチーフプロデューサー・柴田多美子は、「声のトーン、喋りの間、聞きやすさ、抑揚など、とても上手い」と評価する。2012年放送のNHK大河ドラマ「平清盛」では時代考証を担当した。歴史関連著作は30冊近い。監修者として関わる『東大教授がおしえる やばい日本史』は累計発行部数30万部に上る。その本郷の名前をさらに広く知らしめたのが「令和」騒動だった。

 昨年4月1日に発表された新元号「令和」。テレビでは様々なコメンテーターや識者らが褒めそやした。翌2日、テレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」に出演した本郷は、祝賀一色のムードに異を唱えた。

「『令』は上から下に何か命令をするときに使う字。安倍首相は、国民一人ひとりが自発的に活躍していこうという想いを込めたとおっしゃるが、その趣旨にはそぐわないのではないか」

 論語の口先が上手く心がないことを表す「巧言令色鮮し仁」の「令」であり、ひっかかるとも話した。放送後、ネットでは本郷の発言への批判が渦巻いた。

「あ~、また言っちまったかなあ。俺もなかなか大人になれねえな。そう思ったよ」

次のページ