開店から4年。遠山の言葉を借りれば「想像の20倍以上」で世の中にくさびを打ち込み続けてきた森岡書店。それは、ひとえに、森岡の食らいついたらとことんやり抜く真摯で誠実な姿勢が引きだしたものともいえる。

「“ひとりブラック企業”をやっていることになると思うんですけど、たとえ休みがなくても、自分の趣味とかけ離れたことをやっているわけではないので、つらくはない。むしろいまは仕事と人生が結びついたときの充実感を感じています」

 森岡の意欲は陰りを見せない。

「茅場町時代にだいぶ苦戦した経験があるので、自分ができる中で最大限の精度を出すところに喜びを見いだしつつ、いただいたお仕事はなるべく形にしたいなと思っているんです」

(文中敬称略)

■森岡督行(もりおか・よしゆき)
1974年/山形県寒河江市生まれ。寒河江川で魚を突いたり、泳いだりして少年時代を過ごす。両親が共働きだったため、祖父母と過ごす時間が多かった。
87年/中学1年のときに近くに松田書店がオープン。その後、「ブルータス」や「メンズノンノ」、「ホットドッグ・プレス」などをここで買うようになる。中2のときに小学校の頃から集めていた切手を売り、興味を持ち始めていた古着を買い始める。
93年/寒河江高校の進路指導で古着屋をやりたいといって止められる。法政大学法学部政治学科に入学。在学中には、東京宝塚劇場、中野サンプラザ、三省堂書店などでアルバイトをしていた。
98年/創業110年を超える「一誠堂」に入社。文科系の学術書専門古書店。落丁調べに始まり、客との応対の中で古書の知識を積み重ねていく。この頃住んでいたのは、中野にあった「中野ハウス」。家賃3万円。昭和初期の風情ある建物で、2畳半ほどの石炭置き場があり、その上で寝起きしていた。
2006年/「一誠堂」を退社し、茅場町に森岡書店を開店。チェコとフランスに本の買い付けに出る。写真集、デザイン、美術、建築が中心の古書店。
  12年/『BOOKS ON JAPAN 1931-1972 日本の対外宣伝グラフ誌』(ビー・エヌ・エヌ新社)刊行。
  14年/『荒野の古本屋』(晶文社)刊行。
  15年/銀座1丁目の鈴木ビル1階に森岡書店銀座店を開く。『本と店主』(誠文堂新光社)刊行。
  16年/森岡書店のブランディング、グラフィックデザインなどがドイツやイギリスなどの国際賞を受賞。
  19年/中国・深センの本屋で講演会。記者会見には、20社以上のメディアがかけつけた。

■一志治夫
ノンフィクション作家。『狂気の左サイドバック』で第1回小学館ノンフィクション大賞受賞。最新刊に秋田の蔵元集団「NEXT5」を取材した『美酒復権』(プレジデント社)がある。

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