「本屋衰退といわれる中で、僕はむしろ、本と本屋が求められていると強く感じている」/山形県郷土館「文翔館」で(撮影/キッチンミノル)
「本屋衰退といわれる中で、僕はむしろ、本と本屋が求められていると強く感じている」/山形県郷土館「文翔館」で(撮影/キッチンミノル)
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 東京・銀座にたたずむ、たった5坪の書店。ここでは、1週間に一冊だけの本と、本にまつわる作品が売られる。
 
 店主の森岡督行が厳選した本を求め、書店には多くの客が訪れる。その確かな目利きにより、文化の発信地ともなってきた。
 
 開店した当初は客も来ず、資金も尽きた。それでも食らいついたから今がある。森岡は確かに、一つの時代を作っている。

 店の前面ウィンドーには、小さなロゴがこう刻まれている。

「A SINGLE ROOM WITH A SINGLE BOOK」(一室に一冊)――。

「1週間に一冊の本だけを売る」をコンセプトに、森岡督行(もりおか・よしゆき)(44)が東京・銀座に森岡書店銀座店を開いたのは4年前のことだった。いまや日本中の良質なモノやコト、ヒトが、この90年前に建てられた古ビルのわずか5坪の一室に集まりだしている。そこに詰まっているのは、人を惹きつけてやまない圧倒的なリアリティーだ。
 
 4月16日、この日、森岡書店では、新たな「一冊の本」が展示され、販売され始めていた。
 
 ワタナベマキ著『旬菜ごよみ365日』。料理家ワタナベマキの毎日の食の記録をまとめた料理本だ。1日ごとに美しい料理写真と簡潔な文が添えられた労作である。
 
 休店日の月曜日を除いた火曜日から日曜日まで売られたこの本は、仕入れた100冊を会期の終わりを待たず完売した。だが、森岡書店の特徴は、本自体の売れ行きもさることながら、一冊の本から派生するモノとコトが同時に展開されていく点にある。そして、多くの場合、会期中、著者自らも店内に立つから、読者と直接対面することになる。

『旬菜ごよみ365日』では、ワタナベがつくった4種類の保存食「醤(ジャン)」が販売され、また、最終日には「三六五」と銘打たれた手づくり弁当が15個限定で並んだ。インスタグラムのフォロワーが5万人近いワタナベだけに、「醤」は2日で売り切れ追加搬入、弁当は予約の段階で完売した。

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