森岡は、ついこの6月にも、深センの書店から招聘され、記者会見と講演会を開いてきた。丸一日、若者たちからの質疑に応じた。
「本屋がすごくアナログのことをやっているのに、イノベーションにつながっていると中国のメディアで書かれていたこともあって、起業したいとか、新しいアイデアで何かを起こしたいという熱い人たちがたくさん来た。独り勝ちしているアマゾンの対抗手段みたいにとらえている人も多かった」
現在、森岡書店の展示企画は、半年以上先まで埋まっている。では、森岡自身は本の選択基準をどこに置いているのだろうか。
「いま、ここには、現状の日本社会で良いもの、豊かなものが集まってきやすい。その本を販売することによって、その分野がもっと伸びていく、そんなイメージを持っています。世の中や社会に矛盾があると認識しつつも、僕は世の中のいいところ、豊かなほうを見ていきたい。基本的にポジティブなテーマを選んでいきたいと思っています」
森岡は、もともと環境問題に関心があり、大量生産大量消費を前提とした経済活動に対して否定的だった。就職に際して、古書店を選んだのもそんな理由からだった。しかし、40代半ばを迎えたいま、森岡が選択するのは、写真やデザインであり、料理や生活工芸である。もちろん、イスラム国に故郷を奪われた民族を追った写真集『ヤズディの祈り』(林典子著)のようなメッセージ性の強い作品にもときに触手をのばす。だが、「社会と直接対決するというよりも、小規模でいいから自分のやりたいことを見つけて取り組む」というスタンスは崩さない。
「Takram」の渡邉の森岡評はこうだ。
「一見物腰が柔らかくて、丁寧な人なんですが、こだわりの突き詰め方が半端じゃなくて、コンセプトにしても、一緒につくったロゴの選び方も、一度これと決めたら絶対に動かない人。何時間かけて打ち合わせしても、話が変わっていないこととかがよくある。独特の美意識の人です」