埼玉・浦和の作家宅で写真のセレクト。1960年代の銀座を活写した写真集を近々刊行予定。版元として本づくりの仕事も増え始めている(撮影/キッチンミノル)
埼玉・浦和の作家宅で写真のセレクト。1960年代の銀座を活写した写真集を近々刊行予定。版元として本づくりの仕事も増え始めている(撮影/キッチンミノル)

「沖さんの作品が好きで、茅場町時代にもやったことがあった。もちろん最初だったので、この著者なら売り上げが間違いなく立つという人でやりたかったんです。本も売れましたし、壁に展示した作品も売れました」

 作品の価格は20万円前後のものが中心だったが、求める人は少なくなかった。作者は毎日店頭に立ち、トークイベントも数回行われた。この初っ端の企画は、その後、思わぬ広がりを見せていく。来店した「ギャラリー小柳」の小柳敦子がスイスで開かれた「アート・バーゼル」に沖の本と作品を出品、さらにそれがベルギーでの展覧会へとつながっていったのだ。5坪の本屋はスタートと同時に世界に向けて発信を始めたわけである。

■物腰が柔らかくて丁寧、こだわりは半端じゃない

 第2回の一冊は、湯沢薫の写真集『幻夢』。写真の展示、トークショー、湯沢のギター演奏などが行われ、本も売れた。『アラマメ』と題された写真家・荒木経惟とファッションブランド「マメ(mame)」のデザイナー黒河内真衣子がコラボレーションした作品集では、オープニング時に人が殺到して通りにあふれ、近所からの苦情で警察が来る騒ぎとなった。絵本作家、高橋和枝の『月夜とめがね』(原作・小川未明)は、会期を2日残して本が売り切れた。土日だったため、版元からも取り寄せることができず、森岡自らが丸善や教文館など近くの書店を回ってかき集め補充した。そののちも本によっては、1週間で200~300冊売れることもあった。茅場町時代とは違って出だしから実に順調だった。

 オープンしたばかりの森岡書店を訪れたのは日本人ばかりではなかった。ある日、上海に住む中国人がやってきて、SNSで森岡書店についてアップすると、中国で大反響を呼んだ。これまでにない仕組みについて、スティーブ・ジョブズが引き合いに出されたことがまた新味を求める中国人の心に刺さったのだ。以来、今日まで、森岡書店に中国人がやって来ない日はないというまでになる。

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