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「直虎」に「JIN」「世界の中心で、愛をさけぶ」「ごちそうさん」。最近手掛けた「義母と娘のブルース」もまた、大ヒットのドラマとなった。
売れっ子脚本家の作品を挙げていけば、枚挙にいとまがない。森下佳子という名前で、視聴者がついてくる。
それなのに、「次はダメかもしれない」と考える。自信と不安、小心と大胆のはざまで言葉が生まれる。
その話が森下佳子(もりしたよしこ)(48)から出たのは、彼女が書いた大河ドラマ「おんな城主 直虎」(以下「直虎」)について触れたときだった。
「あれはベルばらへのオマージュなんですよ」
「直虎」の主人公は、乱世の時代に井伊家を守るために城主となった少女おとわ。確かに、池田理代子が描いた少女漫画の金字塔「ベルサイユのばら」のオスカルだ。女性たちをキュンキュンさせた幼なじみ政次のおとわへの献身は、まさにアンドレのオスカルへのそれ。
「目標に向かって散るという2人の関係性もあるんですが、私の中のベルばらの真骨頂は、オスカルが自分を男の子として育てた父に人生に悔いはないと告げるところ。あそこが大好きで、『井伊谷のばら』の回でそのままいただきました」
都心の駅から徒歩5分圏内にある洒落た一軒家。自ら「ごちそうさん御殿」と呼ぶ家は朝ドラを書き上げた翌年に建てたもので、森下の仕事場でもある。夫と兼用の書斎もあるのに、彼女が小さなMacに向かうのはもっぱらダイニング。いや、中学1年になる一人娘・薫に言わせれば、「ママが書くのは布団の中、寝ころびながら」らしい。
「そうなんです。私、どこででも書くんです」
話し言葉に大阪弁が交じる森下は、その名で視聴者を呼べる脚本家の一人である。血のつながらない母娘のかけがえのない関係を描いた「義母と娘のブルース」などテレビ雑誌が選ぶ脚本賞の常連で、「ごちそうさん」では向田邦子賞と橋田賞をダブル受賞。徹底した取材に基づく破綻のない構成、平易で心打つ台詞、「天才的」と言う人もいて、誰もがその力量を評価する。
■登場人物の心臓の音がドクドクと聞こえてくる
だが、本人はいたって謙虚。5月に静岡で行われた今川義元公生誕五百年祭のシンポジウムで、「直虎」の監修を務めた小和田哲男の対談相手に呼ばれたその折のこと。客席を沸かせたあとの挨拶が「私なんかの話を聞いてくださって、ありがとうございました」だった。当人としては「最終生産物を作っているのではないので」作家というより職人のつもり。1話につき7、8稿もザラで、いつまでも直していたい「直しフェチ」。