年間80試合以上観戦する。「現場100回」。銀行員時代、苦手だった上司から学んだ(撮影/大野洋介)
年間80試合以上観戦する。「現場100回」。銀行員時代、苦手だった上司から学んだ(撮影/大野洋介)
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 5月のチャンピオンシップでは、アルバルク東京が優勝を決め、千葉ジェッツの富樫勇樹がリーグ戦のMVPに選ばれた。年々盛り上がりを増すプロバスケットボールのBリーグ。しかし、リーグ分裂のため、国際資格停止処分が下されたこともあった。 Bリーグとして土台をつくった川淵三郎の後を受け、大河正明が確実に成長させていく。リーグも人生も、これからだ。

 空気がふわっと1センチ浮いた。赤いTシャツを着た群衆が一斉に立ち上がっている。拳を突き上げた赤いかたまりの間から湧き上がった歓声が炸裂し、空気が振動した。

 Bリーグ第3期チャンピオンシップの優勝が決まった。アルバルク東京が千葉ジェッツを4点差で下し、日本一の座を守った。昨年に続き2度目の顔合わせである。熱狂的な地元ファンに支えられて、18チームが540試合を戦い、残った上位8チームによるトーナメントを勝ち上がった。5月11日、横浜アリーナ。ゴールドの紙吹雪が舞い、チェアマン大河正明がキャプテンにティファニー製のトロフィーを手渡した。

 音楽、チアリーディング、MC、映像が異空間を演出する。1万3千席のチケットは発売20分で完売。チケット売上額は約1億円に上る。

 スポーツ関連事業、中でも「観戦」ビジネスはまだ日本に習慣づいていない。これからの成長分野だ。リーグ発足後わずか3年で、Bリーグとクラブチーム、そして日本バスケットボール協会の合計売り上げは270億円に届こうとしている。2026年には500億円を目指す。

 この日、韓国のプロバスケットボールリーグKBLとの連携に向けた調印式と会見が行われた。

「昭和はプロ野球の時代、平成はJリーグの時代でした。そして令和はBリーグの時代です」

 大河の口調は静かだが自信に満ちていた。翌朝のニュース番組では、我々はうかうかしていられないと、プロ野球解説者から本音がこぼれた。

●地元が負けても楽しい場所にすること

 国際バスケットボール連盟(FIBA)は、加盟国に国内のプロリーグは複数あってはならないと定めている。しかし、日本では日本バスケットボール協会の影響下にあるNBLと、独立系のbjリーグに10年以上分裂。FIBAは勧告の末、14年、日本バスケットボール協会に国際資格停止処分を下した。前後してFIBAがJリーグ初代チェアマン川淵三郎(82)に状況の打開を依頼。川淵が大鉈をふるい、Bリーグを発足した。そして川淵が後継者として第2代チェアマンに指名したのが大河だ。京都大学法学部卒、元銀行マン、前職はJリーグ常務理事、60歳。

「アリーナはサッカーの競技場に比べて規模がコンパクトで街の中につくれます。バスケットボール以外にもライブやイベントなど需要もある。バスケットボールは音楽やファッションとの親和性が高い。地元チームが負けても、来て楽しかったと言ってもらえる場所にすることが大事です」

 大河はビジネスモデルを簡潔に説明していく。オレンジ色のスプリングセーターはポーカーフェイスの雰囲気を和らげているものの、数字に冷徹な最高財務責任者(CFO)のようにも見える。

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