トレーニング中もほとんど表情を変えない大河が苦しさに顔を歪めた。腹が立っても他人に悟らせない。唯一Jリーグ時代からの秘書・岡島正実は「機嫌が悪いと口を利かなくなる」のでわかる(撮影/大野洋介)
トレーニング中もほとんど表情を変えない大河が苦しさに顔を歪めた。腹が立っても他人に悟らせない。唯一Jリーグ時代からの秘書・岡島正実は「機嫌が悪いと口を利かなくなる」のでわかる(撮影/大野洋介)

 BリーグはトップリーグB1の18チーム、続くB2の18チーム、そしてB3の10チームからなる。地域密着を基本とし、B1は自治体などとの連携により5千人以上、B2は3千人以上収容できるホームアリーナを確保することが求められる。債務超過や3期連続で赤字となるなど経営状況によっては下部リーグへの降格や参加停止になる。大河はこれらのクラブライセンス制度をはじめ、Bリーグの枠組みをつくった。昨年度はB1では千葉ジェッツをトップに6クラブが営業収入10億円を超えた。150もの企業がサポートするクラブもある。

 1993年に誕生したJリーグは、地域密着を土台とするプロスポーツビジネスのイノベーションだった。約20年遅れで誕生したBリーグは、アリーナスポーツとしてJリーグとは異なる市場を切り拓こうとしているという話である。

 4月6日、大河は、茨城ロボッツの新設ホームアリーナ、アダストリアみとアリーナを訪れていた。群馬クレインサンダーズを迎えてこけら落としの試合が始まろうとしている。アリーナは水戸駅から繁華街を抜けてタクシーで10分の好立地に5千人を収容する。水戸市では中心市街地の人口空洞化が課題だ。街に活気を取り戻すための新しい活動の中心にいるのが水戸出身の茨城ロボッツオーナー堀義人(57)だ。グロービス創業者でもある堀が笑顔で大河と握手をし、大きな目を見開いた。

「Bリーグはふるさと水戸を元気に盛り上げるために最適なコンテンツです」

●論拠を説明しながら辛抱強く意見を聞く

 MCの軽快なリードでチアリーダーが選手を迎え、ティップオフ(試合開始)。試合中も大河は客の動線や空間演出をチェックし、スマホのアプリで他会場の試合経過を確認している。

 夜8時、試合終了。カメラマンと私がタクシーに乗り込むと、年配の運転手が最近は海岸沿いのひたち海浜公園に賑わいをとられていたのだと言い、「こんなに大勢のお客さん、久しぶりだねえ。もう、網をかけてしとめたいね」と破顔した。
 バスケットボール界の再出発にあたり、NBLとbjリーグのチームはリーグに退会届を出してBリーグに入会する手続きを踏んだ。だが、Bリーグはすんなり受け入れられたわけではない。

 山形ワイヴァンズ社長の吉村和文(59)は、クラブオーナーたちの間にはクラブライセンス制度への反発があったという。

「いきなりそんな大きな数字を突きつけるなんて、無理難題言わないでくださいよ、という気持ち、ありましたよね」
 吉村はソファから大きな体を乗り出した。

「でもね、大河さんは丁寧に説明して、納得するまでつき合ってくれました。クラブオーナーたちと議論が紛糾したり、失礼な発言が出たりしても感情的にならない。ものすごく我慢強い人」

 吉村は山形市を拠点にケーブルテレビ会社、映画館など複数の企業を経営している。山形ワイヴァンズだけに注力はできず、ともすればクラブの経営状況は中途半端になりがちだった。だが、大河は、エンターテインメント性の高いBリーグと吉村の事業はうまくかけ合わせればシナジー効果が生まれる、そのためには経営と事業執行を切り分ける必要があると考えていた。ある日、吉村は大河からショートメッセージを受け取った。

「Bリーグの経営は片手間でできるものではないということが書かれていました。日頃とは違う改まったメッセージにドキッとしました」

暮らしとモノ班 for promotion
なかなか始められない”英語”学習。まずは形から入るのもアリ!?
次のページ