テロリストの「脱過激化」で紛争を解決する。僕の前に道はない。だから疾走する価値がある(撮影/篠田英美)
テロリストの「脱過激化」で紛争を解決する。僕の前に道はない。だから疾走する価値がある(撮影/篠田英美)
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人は生まれる場所を選べない。もしも自分がソマリアに生まれていたら……と考えれば、人間としての最低限の「権利」は守られるべきだろう。「身内だから助けるって感覚とは違います。人権ですよね」と永井(撮影/篠田英美)
人は生まれる場所を選べない。もしも自分がソマリアに生まれていたら……と考えれば、人間としての最低限の「権利」は守られるべきだろう。「身内だから助けるって感覚とは違います。人権ですよね」と永井(撮影/篠田英美)
最近、自宅で飼い始めた愛猫、「ポコ」と。もともと少年時代は「ランちゃん」という柴犬をこよなく可愛がっていたのだが、猫派に転向か。猫の気ままさに手を焼いている(撮影/篠田英美)
最近、自宅で飼い始めた愛猫、「ポコ」と。もともと少年時代は「ランちゃん」という柴犬をこよなく可愛がっていたのだが、猫派に転向か。猫の気ままさに手を焼いている(撮影/篠田英美)
東京都内の移動には、けっこう自転車を使う。アフリカから帰国すると、疲労の蓄積で、しばしば発熱する(撮影/篠田英美)
東京都内の移動には、けっこう自転車を使う。アフリカから帰国すると、疲労の蓄積で、しばしば発熱する(撮影/篠田英美)

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 ソマリアは今でもテロが頻発し、多くの人間の命が奪われている。治安の悪さに、他国も簡単には手を差し伸べられない。解決できるのはクソな大人じゃない、俺たちなんだと、そんな国の紛争問題に取り組むのが永井陽右。ギャングと腹を割って話し合い、受け入れ、その上でどうすれば社会を変えられるのか考える。敵はギャングではないはずだ。

 アフリカ大陸の東端、インド洋に突き出た半島国「ソマリア」は、テロの暴風が吹き荒れている。2017年10月にイスラム過激派組織アル・シャバーブが爆弾を積んだ自動車を繁華街で爆発させ、500人以上が亡くなった。米メリーランド大学の調査では、17年に同国内で614回テロが発生し、1912人が死亡している。和平は遠い。

 外国人の誘拐も頻発し、人道援助で名高い「国境なき医師団」でさえ多くのスタッフを殺されて退去したままだ。外務省は全土を危険度レベル4とし、退避勧告している。国際社会は遠巻きに殺戮の嵐を眺めている。貧しい辺境の国、ソマリア。

 今年4月下旬、永井陽右(27)は、そのソマリアの首都、モガディシオにいた。国連とアフリカ連合の共同管理地域「コンパウンド」でソマリア政府職員や現地関係者と折衝を重ねていた。コンパウンドにもときどき迫撃砲が撃ちこまれる。

 NPO法人アクセプト・インターナショナルの代表理事を務める永井の仕事は、アル・シャバーブからの投降兵を「脱過激化」し、社会復帰に導くことである。元テロリストが過激思想から脱却し、地域コミュニティーと関係を結び、経済的、社会的に自立できるように誘う。今夏にはソマリア政府と協働で施設を開き、DRR(De-radicalization・Reinsertion・Reintegration)と呼ぶプロジェクトを開始する。

 それにしてもイスラム教徒でもない日本の若者が、どうやってテロリズムに染まった人間の「心」を動かし、社会との接点を築こうというのか。

●問題の提起よりも解決する方が重要だ

 ソマリアへ発つ前、永井はこう語った。

「なぜテロ組織に入ったのか。本人と腹を割って話し合います。同世代の若者として問題意識を傾聴し、こう訊きます。『テロで状況が変わった? 組織に入って何か変わったの?』。これがキラークエスチョン。彼らは欧米も国連も、政府もクソだ、同胞を殺したと怒りをぶちまける。その怒りに寄り添うのです。だったらクソじゃない僕らが一緒に社会を変えよう、と受け入れる。フラットに向き合うわれわれは何の利害関係もなく、丸腰だから対話ができます」

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