早大を卒業すると、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)に修士留学し、紛争研究の傍らギャングの脱過激化に力を注いだ。同世代のよしみは、ときに宗教や習慣を超えた。ともにサッカーボールを蹴り、アニメ「ドラゴンボール」の話で盛り上がる。ギャングたちは、イスラムの長老が「更生」させようと垂れる説教よりも、ヨスケとの本音の話に耳を傾ける。内心、彼らも足を洗いたがっていた。ギャングが訴える。

「俺たちの敵は警官だ。奴らはギャングの一員と見れば問答無用で射殺する。人違いでもお構いなしだ。俺は好きでギャングになったわけじゃない。親もいない、教育も受けさせてもらえなかった。生きていくには金がいる。俺らを悪人だというなら、警察や政府、国連やアメリカのほうが悪人だ。大人はどいつもこいつもクソったれだ」

「じゃあ問題だらけの社会を誰が変えるんだ? 不満を言いながら人から金を巻き上げて、物を盗んで何が変わった? 大人なんてどうでもいいよ。社会を変えるのは僕らでしょ」と永井。うんざりするぐらいに話し合い、ようやくギャングが心を開いた。

「偏見を捨てて俺たちを受け入れてほしい。話を聞いて、職を見つける相談にのってくれないか」

「もちろん。一緒にヒーローになろう」

 長い対話の果てに接点が見つかり、アクセプトはギャングを受け入れる。改心したギャングは小学校に出向き、生徒に向かって「俺たちのようにはなるな」と語りかけた。

 永井は受け入れたギャングを次の脱過激化プログラムのスタッフに登用した。そうして仲間が仲間を説得し、前述のギャング組織カリフマッシブは17年秋、全員がアクセプトに受け入れられ、解散した。その解散式でかつて永井を挑発したレッドアイは、「俺たちは昨日いた場所に戻る必要はない。この機会を両手で受けとめよう」と言い切った。いまやレッドアイは重要なメンバーの一員だ。

 永井の突破力は凄まじい。といっても古い猪突猛進型ではない。永井と親しい雑誌編集長、三根かよこ(32)が語る。
「永井君は死ぬのが怖いってよく言います。一方で、『いま、ここ』の実存を大切にしたい、とも。いま、ここに集中して自分を奮い立たせて怖さを乗りこえるのでしょう。覚悟はそのときすればいいけど、勇気は何度も必要だって。とても繊細です。そのヒリヒリした感じに嘘はないですね」

●時にギャングの脅迫は現地日本人スタッフにも

 現在、永井率いるアクセプト・インターナショナルには約35人の日本人メンバーが所属している。皆、社会人や学生のボランティアだ。活動は事業部ごとに行う。たとえば、資金調達チームは毎週土曜に事務所に集まり、業務に携わる。ケニア、ソマリア、インドネシアのメンバーともチャットのアプリを使って連絡を取り合っている。

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