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 子育て介護を迫られる「ダブルケア」が働く世代を中心に増えている。誰にも相談できず孤立しがちなことから、一人で様々な負担を抱えることになる。それなのに支援は追いついていない実態が見えてきた。AERA 2024年7月15日号より。

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 それは、突然始まった。

 一昨年の11月、東日本で暮らす40代前半の女性の近くに住んでいる母親(60代後半)が脳出血で倒れた。保育園に通う息子(2)は当時1歳で、女性は育休中だった。女性は、息子をおんぶや抱っこし、時にはベビーカーに乗せ、母親の入院する病院や転院先、役所、施設などに通った。申請のタイミングが悪く、保育園にも落ちたため、再申請するなど日々やることに追われた。

 70代後半の父親はまだ元気だが、右半身完全不随や重度失語症の障害が残った母親の介護をすべて任せるのは無理がある。一度、母親を施設に預けたが本人が嫌がったので、在宅介護をすることにした。夫は仕事で帰宅も遅く、他に頼れる人がいない女性が、介護と育児の両方を担うことになった。昨年4月に育休から復職して、働きながら育児と介護を続けた。

 平日は育児で、休日は介護。しかし、平日も、子どもや母親の体調が悪くなると会社を休んで、病院などに連れていった。自分のための休みはほぼなく、先々を考えると不安で眠れなくなり、睡眠時間は2、3時間の時もあった。心身ともに限界を迎えた。

 今年4月から、有給休暇と介護休暇を使い「休職」し、何とか育児と介護に専念できている。いま最も心配なのが「復職後」のことだ。地域にも助けを求めながらやるしかない、と腹をくくるが、一方でこう思う。

「介護サービスを利用しても、仕事も育児も、その上、介護も抱えるのは難しいです。けれど、仕事を辞めると経済的にも精神的にも不安があります」

 特に、子育てにもこれからお金が必要になるので、仕事を辞めるのには勇気がいる。父親は「仕事はやめるな」と言ってくれているが、高齢の父親には母親の介護の負担は大きい。女性は言う。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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