「1月に文庫化された『悪の芽』では、なぜ人間がダメなのか、人間がダメなのは、生物としての進化が足りないからだ、という視点で書きました。執筆を終えてからも、進化が足りないとしたら、どう進化したらいいのか、ということをずっと考えていたんです。自分なりの答えにたどり着いたとき、それを小説にしようと考えました」

 一条と対をなす人物に、西日本出身の辺見公佑がいる。一条より恵まれた境遇ながら、幼なじみの親友として、貫井さんが見つけた答えを支える。

「手塚治虫先生の『アドルフに告ぐ』のような、仲良く育った2人が最終的に対決する話に憧れていました。以前、『罪と祈り』で挑戦したのですが、登場人物の2人が対決せずに終わってしまったので、今回はそのリベンジです」

 貫井さんはまずタイトルを決め、そのタイトルに向かって詳細なプロットは練らずに書き進める。そのため、予想を超えた行動や心情を登場人物が現すことがあるという。

「単行本化のために読み返したら、僕自身が『そうだったのか』と気づいたことがありました。それが何だったのか、一条と辺見の関係はどうなるのか、といったことも楽しみに読んでもらいたいです」

 本作には一条の人生を左右する堀越聖子や辺見と行動を共にする香坂衣梨奈という魅力的な女性も登場する。貫井さんは、この2人の女性を描くのも楽しかったそうだ。

「とくに辺見と香坂の会話は、僕の小説の新しい面に気づいていただけると思います」

(ライター・角田奈穂子)

AERA 2024年5月27日号

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