内心はそんな思いの親もいるはずですが、それでも100万円近くかかる塾代・習い事代を捻出しようと必死で働くのは、そうでもしないと「我が子が脱落してしまう」という危機意識ゆえです。中学受験教育費で破産するという、「中受破産」という言葉も生まれているほどです。

 では、何から「脱落」するのでしょう。

「中流層からの脱落」です。

 拙著『希望格差社会─「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』(ちくま文庫)で、日本社会が上流と下流に二極化している現実に警鐘を鳴らしたのは2004年のことでしたが、あれから20年が経ち、現状は改善されるどころかますます悪化しています。

 かつて「一億総中流社会」と言われた日本で、今も「自分は中流」とみなす国民は多いのですが、実態はすでに「下流」であるケースは少なくありません。2023年に厚生労働省が発表した「国民生活基礎調査」では、21年の日本の相対的貧困率は15.4%で、先進国中最悪の値でした。「相対的貧困」とは、等価可処分所得(世帯可処分所得を家族人数で割った数字)が中央値の半分未満で暮らす人々のことです。日本の場合は1人当たり127万円未満がそれに当たります。

「相対的貧困」は、目に見えにくいのも特徴です。食べ物や衣服にも事欠き、飢えや無学に苦しむ「絶対的貧困」と比べれば、いちおう屋根のある家に暮らし、何とか食べるものはあるし衣服もある。しかも、格安スマホも持っているとしたら、その人のリアルな経済状態などは傍からはなかなか窺えません。

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