村山は子どもにも名刺を渡す(撮影/今村拓馬)

「いわゆる『デカセギ』の外国人労働者が多かったころは飲酒運転などのトラブルも多かった。でも彼らの中から永住・定住する人も増えてきて、そういうトラブルが少なくなり、逆に仕事や住まいの悩みや相談が増えてきたんですね。そういう『住民』への配慮として考えました」

 22年には、導入していた「パートナーシップ宣誓制度」を申請した日系ブラジル人女性カップルのために、議場で「結婚式」を行った。式場のような飾り付けは職員たちが行ったという。

「申請者に私が証書を『ハイ』って渡せば済むことなんだけれど……なんかそれだけだと可哀想じゃない。親とか反対された経験もある人だろうし。議場を式場代わりに使う制度は以前からあるので、それで結婚式をやったまでですよ」

 村山が通うスポーツジムを営む宮城ユジ(27)は、両親はブラジル国籍の日系3世だが、自身は日本生まれの日本育ち。

「町長が来てくれるようになって、今は会員の半数が日本人になり、経営が助かりました。彼はそういうチャンスをくれる人」

 律儀(りちぎ)な性格とたくましさもあってか、宮城は大泉警察署の一日署長にも選ばれている。ジムに飾られた制服姿の写真が誇らしげだ。

 そんな町の姿勢に憧れて、違う自治体出身なのに大泉町に就職した町職員がいる。

 湯浅帆乃花(24)は高校時代に短期留学したアメリカで日系人の歴史に興味を持ち、上智大学外国語学部ポルトガル語学科に進学。商社か外交官かといった華やかな就活をせず、「現場で日系ブラジル人たちと関わる仕事がしたい」と、大泉町に就職し、現在は企画部多文化協働課に勤める。

「就職面接でフランクな口調でポンポン質問してくるおじさんがいたので誰だろう?って思ってたら、町長でした」

 と、笑う。入職して2日目、村山から呼ばれた。

「君はたしかブラジルの担当をしたかったんだよな。これからブラジル関係の会合にはどんどん同行してもらうから」

 そして実際、領事館での重要なミーティングにも参加させてもらえるようになった。湯浅は町で作成しているポルトガル語の広報誌をレストランなどに手配りしている。

災害時にボランティアをお願いすることもあるので、郵送するだけでなく顔と顔の関係をつくっておくのが大事なんです。希望していた草の根の細かい仕事ができて、やり甲斐を感じています」

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