町で毎月開催される多国籍屋台のイベント「活きな世界のグルメ横丁」の会場で(撮影/今村拓馬)
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 群馬県大泉町。群馬県でもっとも小さい自治体が注目を集めている。人口の2割、5人にひとりが外国籍で、51カ国の人が暮らす。そんな町を「俺の町」と呼び、票にならない人のために走り回る町長がいる。村山俊明だ。一筋縄ではいかない多文化共生と地場産業の活性。賛否両論ありながらも、自らの信念で刺激的な政策を進めている。

【写真】町内にあるジムで汗を流す村山町長

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「初めて町議選に出た動機ですか? 34歳のときでした。私、実は2回離婚していて、前々妻との間に息子がいるんです。離婚の際に面会する約束をして養育費も払っていたんですが、会わせてもらえなかった。せめて顔だけでもと思って幼稚園に行っても追い返された。前々妻に三行半叩(たた)きつけられて、世間様からも相手にされず、『これじゃいけない』と自分が情けなくなったんですよ。それでせめて世間様から認められるようになろうと考えて、町議選に出ることにしました。父親に『俺はこのままじゃ生きていけない。子どもの親として立派な姿を見せたい』というと、『へんな薬でもやってるのか』と疑われましたよ。本当なら地域のためとかなんとか言えばいいんでしょうが、そういうことは言いません。半分やけくそみたいなもんですよ」

 群馬県大泉町(おおいずみまち)の町長の村山俊明(むらやまとしあき・61)は笑いながら、自らの政治人生のスタートをそう説明した。

 新聞・テレビなどとにかくメディアの注目を集める人である。人口4万人少し、群馬県でもっとも小さい自治体だ。だが人口の2割、5人にひとりが外国籍の住民という、日本有数の外国人率という町の特殊性がある。「共生社会」「外国人労働者」といった社会的論点がクローズアップされるなか、この小さな町はこういっては悪いが、日本の先行きを占う「実験室」のように見つめられている。

 そしてそこで行われる村山の政策が刺激的なのである。

 町長になったあとの2017年に「あらゆる差別の撤廃をめざす人権擁護条例」を施行。19年には、性的少数者のカップルを婚姻とみなす「パートナーシップ宣誓制度」を全国の町村で初めて導入した。さらに昨年の12月には、町職員の採用試験で国籍条項を撤廃し、永住者・特別永住者の外国籍住民に門戸を開くと発表した。

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