これに関しては本書には一つの考えがある。食料生産はどの国においても、農家を中心とする生産者の独占的な生産領域である。消費者でもある市民の口出しはけっして許されず、消費者には小売店を通じて供給される食料を買うだけの関係があるだけである。この関係を食料供給システムの市民化という考え方に基づくものに変えていくことである。そして、その機は熟している。
世界的な流行として、最近は、生産者を知ることができるトレーサビリティ、家庭菜園の広がり、農村でのグリーンツーリズム、生態系やSDGsに関心を持つ市民層の増加などから、農業・農村を単なる食料供給拠点だけに留めないつながりが生まれはじめている。
これを機に、だれもが両方の空間を自由に行き来できる制度的な枠組みをつくり、専門的な知識や能力の習得を支援する仕組みを提供することもできよう。そして、それは市民がそこに身を転じることも撤退することも強制しないシステムでなければならない。
その前提に立って、本書は、農業生産者と市民とが個別の協力関係契約を結び、市民はできる範囲で資金協力や助言、安心できる食料の購入、食料販売支援、市民紹介などを持続的に行なっていく連帯と共存の食料生産システムを提案したい。
農業生産者と消費者の連携の一種の形であるが、従来の類似の考え方と決定的に異なるのは、権利と義務を明確にするために消費者・市民がどこかの農家の株主(投資家)になることである。農家の選択により、経営のすべてではなく半分だけを契約システムに織り込んでもよい。何割をその対象にするかは農家自身が決めればいいことである。名付けて「市民・農家株式契約システム」である。農家だけでなく、農業経営法人でももちろんいいことである。