年々下降線をたどり、深刻的な状況となった日本の食料自給率。その背景には離農や国土の狭さなど農業の問題ではなく、戦後のアメリカの存在があると、愛知大学名誉教授で同大国際中国学研究センターフェローの高橋五郎氏は指摘する。『食料危機の未来年表 そして日本人が飢える日』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集して解説する。
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日本の食料問題は外交問題
作家(としてだけではないが)の故・野坂昭如さんは自身を「焼跡闇市派」と称して、第2次大戦の敗戦直後の慢性的な空腹の体験を人生の原点に生きた人だった。彼と同じ世代の作家で反戦家、故・小田実さんなども同様に空腹の時代を生きた。
彼らから影響を受けたとはいえ、筆者は戦後生まれなので、彼らと比べればはるかに恵まれた時代を過ごした。平和でなければメシは食えない、という話は父母からもよく耳にした。いまでは自分もそう思う。
年間100万人以上の膨大な数の餓死者が生まれるのは複雑な理由からだが、基本的な理由は、食料生産を安定的に持続させる土地・ヒト・資金が営農困難、戦争や内紛で失われているか乏しいからである。
少なくともアフガニスタン・ソマリア・スーダン・エチオピア・ベネズエラ・コンゴ民主共和国・中央アフリカ・北朝鮮などにはこの理由が当てはまるのではなかろうか。