奥田:「傾く城」と書いて、「けいせい」と読む。一国一城の主をメロメロに惚れさせて、城を傾けさせてしまうほどの美女、男を狂わせる魔性の美貌の女、「ファムファタル」。
夏井:それが転じて、「遊女」を意味する言葉になった。それにしても意外だよね。恋愛とは縁遠いと思われてきた子規に、これだけ傾城の句があったなんて。
奥田:この驚きは、これまで抱いていた子規のイメージとの落差というよりも、新しい人物に出会ったような感覚に近いです。それも、僕の職業に近しい感性の男に、ね。
夏井:「俳優」奥田瑛二の感性? それとも「映画監督」の奥田瑛二?
奥田:俳優としても、映画監督としても、子規の表現者としての嗜好に通じるものを感じてしまったわけです。
「ロマンティシズム」とでも言えばいいのかな。自分の美意識や感覚を表現するのが俳優であり監督だとしたら、俳人も同じなんだなと。その感覚を貫くために、時には社会に対して反抗的な精神が必要になるのも共通しているなと。
もちろん、社会への迎合も必要で、自分の表現を流通させるためには、世の中にある程度合わせなければいけないことも知っている。でも、そのバランスが難しい。一見、エンターテインメントの形に仕上げながら、実はちゃんと「毒も入れたぞ」というね。そんな絶妙なバランス感覚を、子規の傾城の句に感じちゃった。
夏井:なるほど。面白い分析だなあ。