奥田:思えば、どの時代でも表現者は同じ悩みを抱えてきたんでしょうね。自分の創作欲のままに突き進んでも「売れない」。ですが、多少は売れないと表現の機会すら得られなくなります。映画でいえば興行収入、本でいえば出版部数など、表現者とはいえそれらの数字と無縁ではいられない。
夏井:そのバランス感覚を子規の俳句に感じたんだ。
奥田:ええ。子規って、もっと堅物なんだと思い込んでたのに、実はこんなエロスを感じさせる俳句を残していた。これは「艶俳句」と呼んで一括りにできる作品群だなとも。
夏井:子規の「艶俳句」! すごいネーミングだなあ(笑)。しかも、これらの子規の句に、表現者のバランス感覚を見るのが、奥田さんならではの視点でとても新鮮!
奥田:江戸から明治の浮世絵師だって、王道の作品と春画の双方を描いている人が多いでしょう。日本人の情緒の原点回帰というか、品性を保ちながら表現していくエロスが、子規の艶俳句の色だと思うんです。
夏井:まさに奥田さん的解釈だ! これは、新しい子規俳句の切り口になりそうな予感。
奥田:嬉しくなってきたな。これまで三十年以上俳句を詠み続けてきた甲斐があったというか。
夏井:天下の奥田瑛二がそんな……。
奥田的俳句観
奥田:僕は、人と一緒に詠むのが苦手なので、句会などとも縁遠くて。一人で淡々とジミ~にやってきました。「独りぼっちの俳句」と自分で名付けてます。
夏井:ちょっと、可愛すぎやしない(笑)。まるで、スナフキンみたいじゃない。
奥田:実際にそうなんですってば。俳句の先生たちからも完全に見捨てられているの。「奥田は奥田で、勝手にやれ」と。だから、「僕は僕で勝手に生きて詠んでいく」というスタンスでやってきた。
夏井:全然アリ! 自分のペースが一番!
奥田:だからかなあ。「俳句をやっている」と素人がカミングアウトするのって、大げさに言えば、清水の舞台から飛び降りるほどの覚悟が要る気がしていまして。
夏井:また奥田さん語録が聞けそうだ!