子規自画像
正岡子規(1867 ~ 1902)が描いた自画像。「明治卅四年一月一日 歳旦帳」と記されたこの冊子は、年賀客の芳名録のようなもの。河東碧梧桐ら賀客の俳句・短歌・画の他、子規の俳句5句と自画像2点が収められている
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 明治を代表する俳人・正岡子規。子規の俳句には遊郭や遊女について詠んだものも多い。そんな意外な一面に、俳優や映画監督として活躍する奥田瑛二さんも驚きを隠せない。俳人・夏井いつきさんとの子規トークをまとめた『よもだ俳人子規の艶』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集し、紹介する。

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子規に艶俳句

奥田:僕は生来の怠け者で、強迫観念にかられないと動けないタチなんです。いただいてた膨大な子規の資料は、夏井さんとの対談日が決まってからの一気読みでした。

夏井:奥田さんは、瞬発力で乗り切るタイプなんだ(笑)。

奥田:僕自身、俳句を始めてから三十年以上経っているんですが、子規に限らず、松尾芭蕉や与謝蕪村ら、有名な俳人たちにはほとんど興味がなくて。唯一、小林一茶はちょっと面白いかな? と思うくらいで。

 だから、驚きましたよ。「いっちょ腰を据えるか」と始めたら、これがまぁ面白いのなんのって……完全に先入観を覆されちゃった。

 なんといっても、子規の傾城の句の数にびっくりしてねえ。「子規とエロス」って、全くイメージになかったから。

夏井:エロス! しょっぱなからずばりと来たなあ。確かに、私も子規と女性って縁遠いものだと思っていた。

奥田:恥ずかしながら、僕は「傾城」という言葉も知らなかった。こういう表現があるんだなと。

夏井:一般的にはほとんど使われない言葉だから。

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子規は僕の職業に近しい感性の男