いや、そんなイデオロギーや政治思想のようなスケールの大きな話を持ち出さなくとも、自由と平等にかかわる問題は私たちの身近に、いたるところに転がっているといえるでしょう。もし自分の住んでいる家の近くにたまたまビールの自動販売機がないために、飲みたいビールを遠くの酒屋まで買いに行かなければならないなんて、不平等で不自由だと思いませんか。
ここでは、社会における自由について、政治学や倫理学の話ではなく、あくまでも行動遺伝学の視点から考えていきますが、それはやがてイデオロギーや政治思想とは違った意味で、自由な社会が突きつける生き方の問題に光を当てることになります。
遺伝と環境が知能や学力に及ぼす影響においては、親の収入や社会的地位が違いをもたらします。社会階層が中より上の比較的豊かな環境では、お金がある程度自由に使えて、環境にもいろいろな文化的な選択肢があって、自由に行動を選べる機会が多いので、結果的には遺伝の影響が大きくなる。それに対して、経済的な理由で困窮した生活を送る環境だと選べる選択肢が限られてくるので、逆にその環境の影響を得やすく、結果的に共有環境の影響が大きく出る。つまり家庭の裕福さとそれに伴う文化的資源へのアクセスの幅の広さが、遺伝的な差異を増幅させているということです。